シラカンバ(シラカバ)・ダケカンバ・ウダイカンバはいずれもカバノキ科カバノキ属に含まれ、寒い地域や高山では身近な落葉高木です。葉の側脈が直線的で並行に並び、細かい鋸歯があるの共通点で、日本人・アイヌの間で様々な用途で広く利用されてきましたが、その区別が分かっていない人もいるかもしれません。最も代表的な違いは樹皮の色にありますが、その葉・花・種子にも違いがあります。本記事ではカバノキ属の分類・形態について解説していきます。
シラカンバ・ダケカンバ・ウダイカンバとは?
シラカンバ(白樺) Betula platyphylla var. japonica は別名シラカバ。日本の北海道・本州(中部以北);千島・サハリン・朝鮮・中国・東シベリアに分布し、ブナ帯の二次林に多い落葉高木です(神奈川県植物誌調査会,2018)。
ダケカンバ(岳樺) Betula ermanii は別名ソウシカンバ。日本の北海道・本州・四国;朝鮮・千島・サハリン・沿海州・カムチャッカに分布し、ブナ帯の山地に生え、特に高山に多い落葉高木です。
ウダイカンバ(鵜松明樺) Betula maximowicziana は別名サイハダカンバ、マカンバ。北海道・福井県~岐阜県以北の本州に分布し、多雪地の山地にやや稀に生える落葉高木です。和名は樹皮に油脂分が多くよく燃えることから、鵜飼いで使う松明として利用されたことに由来するとされています。
いずれもカバノキ科カバノキ属に含まれ、寒い地域や高山では身近な落葉高木です。
葉の側脈が直線的で並行に並び、細かい鋸歯がある点が代表的な共通点です。
他にも、果実の苞は薄く3裂し、種子とともに落ち、雄しべは2本で、花糸は2裂し、冬芽は無柄で芽鱗は3枚以上が共通している木材としての利用されてきた点が共通しています。
雄花序と雌花序が別れ、花粉を風によって運んでもらい受粉してもらう風媒花である点や、種子に翼があり風によって生息地を広げる風散布である点は近縁のハンノキ属と共通ですが(真坂,2007)、カバノキ属ではハンノキ属よりも更に翼が発達しており、ハート型のようにも見えるでしょう。動物を介さない繁殖方法をとっていることと外生菌根との共生を行っていることから、いち早く開けた土地に入り込む先駆植物(パイオニア種)としての役割があります(橋本,2003;荒木ら,2014)。
3種の中でもシラカンバは特に有名で、シラカバと呼ばれ、材木用・食用・薬用・松明用など様々な用途で利用されてきました。
アイヌ語でシラカンバの樹皮のことを「シタッ」と呼び、漫画『ゴールデンカムイ』でも樹皮に油が多く含まれることから、松明として使用される様子が描かれています。また樹液はタッニワッカ(シラカバの水)と呼び、緊急用の飲料水に使っていました。
更に明治時代に武者小路実篤・志賀直哉などによって創刊された文芸雑誌・美術雑誌である『白樺』やその雑誌で活動した白樺派も有名でしょう。その由来は彼らが日光や赤城の高山のシラカンバの様子やその色合いが好きだったからとされています(阿川,1997)。
しかし名前だけ知っていて、3種を正しく区別点を知らない人もいるかもしれません。
シラカンバ・ダケカンバ・ウダイカンバの違いは?
カバノキ属は日本に11種分布しますが、ここでは3種に絞って解説します。
3種の代表的な違いとして挙げられるのが樹皮の色の違いでしょう(神奈川県植物誌調査会,2018;林,2019)。
シラカンバでは白色、ダケカンバでは橙色、ウダカンバでは銀灰色~白色であるという違いがあります。
これだけでも区別できるという人もいますが、他にも区別点を挙げておきます。
葉に関しては、シラカンバでは側脈が少なく、葉の基部(葉脚)がわずかに湾入する程度であるのに対して、ダケカンバとウダイカンバでは側脈が多く、ハート形に深く湾入するという違いがあります。
ダケカンバとウダカンバに関しては、ダケカンバでは葉身が5~8cmで、側脈の先は普通であるのに対して、ウダカンバでは葉身が8~15cmとカバノキ属最大の大きさになり、側脈の先が突き出て鋸歯になっていることが多いという違いがあります。
また、シラカンバとウダイカンバでは果穂が下垂するのに対して、ダケカンバでは果穂が直立するという違いもあります。
種子の翼はシラカンバが最も発達しています。
引用文献
阿川弘之. 1997. 志賀直哉 上. 新潮社, 東京. 525pp. ISBN: 9784101110158
荒木基二・渡辺誠・斎藤秀之・渋谷正人・玉井裕・小池孝良. 2014. 窒素沈着がダケカンバとシラカンバの成長と外生菌根の発達に与える影響. 北方森林研究 62: 65-66. ISSN: 2186-7526, https://doi.org/10.24494/jfsh.62.0_65
橋本靖. 2003. シラカンバに定着する外生菌根菌の生態とその役割に関する研究. 日本菌学会会報 44(2): 65-66. ISSN : 0029-0289, https://doi.org/10.18962/jjom.jjom.H14-67
林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
真坂一彦. 2007. 資源配分からみたシラカンバの開花戦略. 北海道林業試験場研究報告 44: 45-96. ISSN; 0910-3945, https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030742091