トキワツユクサ・ノハカタカラクサ・ミドリハカタカラクサ・オオトキワツユクサの違いは?似た種類の見分け方を解説!栄養繁殖で分布地を拡大していた?蜜を出さない花から出る白い糸の役割は?

植物
Tradescantia fluminensis

トキワツユクサ(ノハカタカラクサ・ミドリハカタカラクサ)とオオトキワツユクサは観賞用に園芸で栽培され、現在急速に野生化しているムラサキツユクサ属です。元々様々な形態を持った品種が野生化したためか、その形態は多様です。現在の分類では葉の形、葉の下面、結実の有無で、ノハカタカラクサとミドリハカタカラクサは区別されます。オオトキワツユクサは葉が特に大きいものです。ただこの分類には当てはまらないものもあり、研究が不足しているので無理に区別する必要はないかもしれません。繁殖方法も一部栄養繁殖を行っているので懸念の急速な拡大は理解できますが、花による種子繁殖も行っているようです。しかし、花は蜜を分泌せず、その花の構造で最も目立つ白い花糸は昆虫を花粉を食べるための足場にみせて騙すためだと考えられています。果実は蒴果でおそらく重力散布です。本記事ではトキワツユクサ類の分類・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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南アメリカ原産で日本でも拡大中の草本3種

トキワツユクサ Tradescantia fluminensis は南アメリカ原産で観賞用に持ち込まれたものが世界中で野生化しており、日本でも昭和初期に輸入されたものが野生化しています(清水ら,2001; CABI, 2019)。原産地では熱帯雨林や、道端や庭などの湿気の多い日陰のある場所、野生化した地域では庭、公園、土手、川沿い、森林の跡地など、湿気が多く日陰のある場所でも発生する多年生草本です(Barreto, 1997)。

トキワツユクサ Tradescantia fluminensis は日本国内ではノハカタカラクサとミドリハカタカラクサの2品種に分かれるとされています。漢字は「常盤露草」。

そのうち、ノハカタカラクサはハカタカラクサには適切な学名が存在していません。Tradescantia fluminensis(狭義)は園芸品種の ‘Tricolor’ または ‘Laekenensis’ の緑葉になったものとされています。和名は「博多唐草」で斑入りの葉の縞模様が博多織(博多柄)に似ていることに由来します。

ミドリハカタカラクサ Tradescantia fluminensis ‘Viridis’ はシロフハカタカラクサ ‘Variegata’ が緑葉になったものとされています。漢字は「緑博多唐草」。

また、オオトキワツユクサ Tradescantia virginiana(日本での学名)は園芸植物のシラフツユクサ ‘Alvovittata’ の斑がなくなったものです。日本では別種として扱われていますが、世界的には Tradescantia virginianaTradescantia fluminensis のシノニムとされています(Pellegrini, 2018)。これに従えば、やはりオオトキワツユクサも適切な学名はありません。

いずれもツユクサ科ムラサキツユクサ属で、紫色の花をつける種類とは違い、白い花をつけますが、極めて類似しており区別は難しいです。

ノハカタカラクサとミドリハカタカラクサとオオトキワツユクサの違いは?

まずノハカタカラクサとミドリハカタカラクサの違いですが、日本国内の文献とインターネット上での記述には相違があります。

文献に基づくと(植村ら,2015;神奈川県植物誌調査会,2018)、ノハカタカラクサでは葉が卵形でやや小さく、葉の下面が紫色を帯び、結実するのに対して、ミドリハカタカラクサでは葉がやや大きく、葉の下面は緑色で、結実しないという違いがあります。

しかしインターネットによると、ノハカタカラクサでは茎や花柄、葉下面などが紫色を帯びるのに対して、ノハカタカラクサでは全体がほとんど緑色という違いがあります。

皆さんには勿論文献による同定をおすすめしますが、元も子もないかもしれませんが、分けるほど差異であるかは微妙なところです。しかし、繁殖方法の違いは重要かもしれません。

もしかしたらインターネットの記述の元となった文献があるのかもしれませんので、ご存じの方はご連絡ください。

トキワツユクサ(ノハカタカラクサとミドリハカタカラクサ)とオオトキワツユクサの違いとしては、トキワツユクサでは葉は長さ2~6cm、縁の毛は肉眼ではほとんど見えず、萼の背に生える毛は長さ0.5mm以下であるのに対して、オオトキワツユクサでは葉は長さ7~12cm、縁の毛は肉眼で見え、萼の背に生える毛は長さ約1mmであるという点が挙げられます。

とても細かいですが、観察する時は以上をチェックしてください。

ミドリハカタカラクサと思われる個体の葉
ミドリハカタカラクサと思われる個体、しかし花柄は短く、かなり花数が多く典型的ではない、オオトキワツユクサでもないと思われる

第3の品種が存在する可能性あり?

ただ、この分類には当てはまらない個体群も存在するようです。

トキワツユクサにはインターネット上では葉下面が紫色ではなく、花柄や茎が紫色の個体群をノハカタカラクサとして紹介するサイトが多く見られますし、私も以前はそのように理解して私の写真をここに掲載してきました。

しかし上述のように私が見た文献では葉の下面を基準とし、花柄や茎に言及しない2文献がある上に(植村ら,2015;神奈川県植物誌調査会,2018)、この個体群は葉の下面は緑色であるため、文献に従えばミドリハカタカラクサ、インターネットに従えば分類不能ということになってしまいます。

そのため、「花柄と茎が赤く、葉の下面が緑色のトキワツユクサ」という第3の品種が存在する可能性があります。あるいはノハカタカラクサの変異内なのかもしれません。今後のもっと明瞭な識別を記した研究に期待したいです。

なお、『Ylist』ではノハカタカラクサの学名を Tradescantia mundula とし、ミドリハカタカラクサ Tradescantia fluminensis としています。

しかし、改めて筆者が元論文(Pellegrini, 2018)を調査した所、Tradescantia mundulaTradescantia fluminensis と違い、茎に剛毛が生えており、葉に不規則にまたは不規則に剛毛が生え、葉下面が部分的にワインレッドで、葉身が紙質で、花弁が平坦であるとしています。

筆者が撮影した「花柄と茎が赤く、葉の下面が緑色のトキワツユクサ」は満たしておらず、 Tradescantia mundula では無いようです。

「花柄と茎が赤く、葉の下面が緑色のトキワツユクサ」の葉上面
「花柄と茎が赤く、葉の下面が緑色のトキワツユクサ」の葉下面、微妙に基部は紫だがこれを紫色と言って良いのかは不明
「花柄と茎が赤く、葉の下面が緑色のトキワツユクサ」の花

栄養繁殖でのクローンが主だが受粉も起こっていた?

トキワツユクサはニュージーランドやオーストラリアで野生化している個体では栄養繁殖(個体の体が分かれてクローンを作ることで増える仕組み)のみで増えることが確認されているので(CABI, 2019)、日本でもそうなっている可能性があります。

栄養繁殖では茎が水流で運ばれたり、ヒトによって捨てられた園芸廃棄物や土壌、車両や草刈り機などに付着して広がります(Dugdale et al., 2015)。ウシ、ニワトリ、シカやワラビーなどの大型動物にも茎などが付いて広がります。

茎の断片は乾燥に強く、根や土壌との接触がなくても1年間生存することができます。さらに、海水中で最大48時間生存することができるため、河口経由で河岸から近隣の沿岸地域に広がっている可能性が指摘されています。

近年急速に分布地を増やしているのはこのような繁殖方法の影響は大きいでしょう。

しかし、少なくとも原産地では昆虫による受粉も起こっています。花期は4~8月で、春から夏に3つの白い花びらから構成される花が咲き(清水ら,2001)、中央には白い花糸(毛のようなもの)が無数に生えています。

日本の個体群ではノハカタカラクサについては種子繁殖を行っている可能性が高そうです。

トキワツユクサの花

白い花糸は花粉を食べるための足場にみせて騙すため?

白い花は一見普通の花のように蜜や花粉の報酬を昆虫に与えると思われるかもしれません。

しかし、ツユクサ科の仲間は蜜がなく、花粉も僅かでグループによって様々な方法で昆虫を騙して呼び寄せていると考えられています(Faden, 1985; 1992; Evans et al., 2003)。

トキワツユクサが含まれるムラサキツユクサ属の仲間でもこの白い花糸で目立って虫を騙すことで引き寄せると言われています(Faden, 1992)。この花に来るハナアブや小さなハナバチは花粉を食べるための足場があるので食べやすそうだと感じるようです。

すんなり納得できましたか?人間の私には少しわかりにくかったですが、他にもただ遠くから目立つだけではなく、雄しべの量を白い花糸で誤魔化している可能性もあります。つまり花糸が雄しべに「擬態」しているというわけです。昆虫の気持ちになって考えると色々な側面が見えてくるのかもしれません。

同じ属の別の仲間では紫色の花も多いですが、トキワツユクサ類では白いのも不思議です。これがやってくる昆虫の違いにどのように影響しているのかはまだ良くわかっていません。

果実は蒴果で重力散布?

果実は蒴果です(CABI, 2019)。卵形で、3室あり、1室あたり(1~)2個の種子があります。種子は灰色~黒色、並んだ窪みがあります。

トキワツユクサ類は栄養繁殖が主であるためか、種子はあまり注目されておらず、種子散布方法について書いているものは確認できていませんが、単純な果実・種子の構造であることから重力散布、または僅かな風散布である可能性が高いです。同属の Tradescantia hirsuticaulis について記述した論文でも「特殊な種子散布メカニズムが欠如している」としています(Godt & Hamrick, 1993)。

引用文献

Barreto, R. C. 1997. Levantamento das espécies de Commelinaceae R. Br. nativas do Brasil. Universidade de São Paulo, São Paulo. https://repositorio.usp.br/item/000933455

CABI. 2019. CABI Compendium: Tradescantia fluminensis (wandering Jew). https://doi.org/10.1079/cabicompendium.54389

Dugdale, T. M., McLaren, D. A., & Conran, J. G. 2015. The biology of Australian weeds 65. ‘Tradescantia fluminensis‘ Vell. Plant Protection Quarterly 30(4): 116-125. https://search.informit.org/doi/abs/10.3316/informit.786874506183856

Evans, T. M., Sytsma, K. J., Faden, R. B., & Givnish, T. J. 2003. Phylogenetic Relationships in the Commelinaceae: II. A Cladistic Analysis of rbcL Sequences and Morphology. Systematic Botany 28(2): 270-292. ISSN: 0363-6445, https://doi.org/10.1043/0363-6445-28.2.270

Faden, R.B., 1985. Commelinaceae. pp.374-460. In: Dahlgren, R.M.T., Clifford, H.T., Yeo, P.F., eds. The Families of the Monocotyledons. Springer Verlag, Berlin. ISBN: 9783540136552, https://doi.org/10.1007/978-3-642-61663-1

Faden, R. B. 1992. Floral attraction and floral hairs in the Commelinaceae. Annals of the Missouri Botanical Garden 79(1): 46-52. ISSN: 0026-6493, https://doi.org/10.2307/2399808

Godt, M. J. W., & Hamrick, J. L. 1993. Genetic diversity and population structure in Tradescantia hirsuticaulis (Commelinaceae). American Journal of Botany 80(8): 959-966. https://doi.org/10.1002/j.1537-2197.1993.tb15318.x

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Pellegrini, M. O. 2018. Wandering throughout South America: Taxonomic revision of Tradescantia subg. Austrotradescantia (DR Hunt) M. Pell.(Commelinaceae). PhytoKeys 104: 1–97. https://doi.org/10.3897%2Fphytokeys.104.28484

清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七. 2001. 日本帰化植物写真図鑑 plant invader 600種 改訂. 全国農村教育協会, 東京. 553pp. ISBN: 9784881370858

植村修二・勝山輝男・清水矩宏・水田光雄・森田弘彦・廣田伸七・池原直樹. 2015. 日本帰化植物写真図鑑 plant invader 500種 第2巻 増補改訂. 全国農村教育協会, 東京. 595pp. ISBN: 9784881371855

出典元

本記事は以下書籍に収録されてたものを大幅に加筆したものです。

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