ブタクサとオオブタクサはいずれもキク科ブタクサ属に含まれる一年草の雑草で、人間との関わりとしては「ブタクサ花粉症」を引き起こすことで有名でしょう。これはブタクサ属の花が風媒花であることに由来しており、それを実現するために雌頭花や雄頭花が細長い総状花序につき、雄頭花が地面方向に垂れ下がるという大きな特徴を持っています。しかし、この特徴は2種で共通しており、違いは知られていないかもしれません。ブタクサとオオブタクサは葉の形によって簡単に区別されます。セイタカアワダチソウもブタクサと混同されていますが、セイタカアワダチソウは虫媒花であり形も全く異なっています。キリンソウやブタナもなぜか混同されますが、共通点を探すのが難しいくらい見た目が異なっています。本記事ではブタクサ属の分類について解説していきます。
ブタクサ・オオブタクサとは?
ブタクサ(豚草) Ambrosia artemisiifolia は北アメリカ原産でアジア・ヨーロッパ・アフリカ・南アメリカに帰化し、畑、路傍の肥沃なやや乾いたところに生える一年草です(神奈川県植物誌調査会,2018;RBG Kew, 2023)。
オオブタクサ(大豚草) Ambrosia trifida は北アメリカ原産で東アジア・ヨーロッパに帰化し、肥沃な河原などに密集して生える一年草です。
いずれもキク科ブタクサ属に含まれる一年草の雑草で、人間との関わりとしては「ブタクサ花粉症」を引き起こすことで有名でしょう(大久保,2014)。日本で初めて花粉症の原因の一つとして特定されたため、知名度が高いです。ただ、現代の花粉症の原因の70%はスギ花粉です。
ブタクサ属は多くのキク科と同様に「頭花(頭状花序)」をつけます。頭花とはキク科に多く見られ、他の植物における花が集合している花序(=花の並び)のことです。その証拠にそれぞれの花に雄しべと雌しべの構造があり、特別に「小花」と呼ばれることもあります。普通の人は頭花のことを「花」と呼びますが、本来は異なります。
キク科の小花には花冠の先端が片方に大きく伸びて広がる「舌状花」と花冠が筒状になっている「筒状花(管状花)」の2種類があり、キク科の種類によって異なる組み合わさり方をしていますが、ブタクサ属では花冠が退化しているので区別できません。
更に頭花の小花はすべて単性花(雌しべか雄しべしかない)で、雌花と雄花が別々の頭花につくこともブタクサ属の特徴です。
そして、そのような雌頭花や雄頭花は更に細長い総状花序につき、雄頭花では地面方向に垂れ下がっています。
これは風媒花としての特徴で、風に揺られて花粉を飛ばし、受粉するために都合が良いと考えられています。これが花粉症と関わっているわけです。
このように特有の構造を多く持っているものの、ブタクサとオオブタクサではその特徴両方共通しているため間違われやすく、セイタカアワダチソウ・キリンソウ・ブタナに関しては様々な勘違いにより混同されているようです。
ブタクサとオオブタクサの違いは?
まず、生物学的にも近縁種であるブタクサとオオブタクサの違いについて見ていきましょう。
その区別の仕方は簡単です。
ブタクサでは葉は対生または互生し、羽状に裂けるのに対して、オオブタクサでは葉は対生し、掌状に裂ける~3浅裂~全縁です。
用語が分かりにくいかもしれませんが、要するにブタクサは葉が細かく羽のように裂けるのに対して、オオブタクサはそれほど細かく別れません。見れば簡単に分かります。
また茎の高さもブタクサでは20~90cmであるのに対して、オオブタクサでは1~3mにもなることから、名前の通りの違いがあります。ただ生長途中の可能性もあるのでしっかり葉を観察するべきでしょう。
なお、全ての葉が全縁(葉が全く裂けていない状態)になっているオオブタクサはマルバクワモドキ f. integrifolia というややこしい名前がつけられています。本当は改名してほしいですね。
他にブタクサモドキ Ambrosia psilostachya というブタクサに似た種類も稀に見られますが、ブタクサモドキでは葉は1回羽状に切れ、多年草で、雄頭花の外面には軟毛が多く雌頭花は1個ずつつくという違いがあります(ブタクサでは葉は2回羽状に切れ、1年草で、雄頭花の外面は硬い短毛が散生するかまたは無毛で、雌頭花は2~3個つく)。
ブタクサとセイタカアワダチソウの違いは?
ブタクサとセイタカアワダチソウの違いに関してもインターネットではよく検索されているようです。
これはセイタカアワダチソウ(背高泡立草) Solidago altissima がかつてブタクサと勘違いされていたことに由来するようです。
確かにセイタカアワダチソウはブタクサと同じようにキク科で秋に咲きますし、なんとなく黄色い花は黄色い花粉を沢山作っていると感じるのかもしれません。しかし、これは大きな間違いです。
まず、分類学的には確かにブタクサとセイタカアワダチソウはどちらもキク科ですが、キク科の中ではかなり離れたグループに属します。
形に関しても、上述したようにブタクサの頭花は花冠がなく緑色で下向きに垂れ下がっていますが、セイタカアワダチソウの頭花は花冠が目立ち黄色で上向きに咲くため、全く異なります。
決定的な違いはブタクサは風媒花でしたが、セイタカアワダチソウは虫媒花であることです。セイタカアワダチソウが黄色なのは昆虫を惹き寄せるためであり、花粉に関しても昆虫の栄養になるように1粒が大きなものになっており風媒には適していません。そのため、セイタカアワダチソウがヒトを花粉症にすることはないのです。
ブタクサとキリンソウの違いは?
なぜかブタクサとキリンソウの違いについてもインターネットでよく検索されているようです。
しかし、本来のキリンソウ(麒麟草) Phedimus aizoon var. floribundus はベンケイソウ科に含まれ、肉厚の葉と星型の黄色い花が特徴的なブタクサとは全く異なる種類です。
これはセイタカアワダチソウをキリンソウと勘違いした結果なのかもしれません。
確かにセイタカアワダチソウはアキノキリンソウ属に含まれており、別名はセイタカアキノキリンソウというので関連していると思われるかもしれませんが、上述のようにアキノキリンソウ属はキク科ですし、アキノキリンソウ Solidago virgaurea subsp. asiatica はセイタカアワダチソウとはまた異なる種類です。
つまり、ブタクサをセイタカアワダチソウと勘違いして、更にセイタカアワダチソウをアキノキリンソウと勘違いして、更にアキノキリンソウをキリンソウと勘違いしているのかもしれません。
これは全くの間違いですので、気をつけてください。
セイタカアワダチソウとアキノキリンソウの違いを知りたい人は別記事を御覧ください。
ブタクサとブタナの違いは?
ブタクサとブタナの違いについてもよく検索されているようです。
これは名前がなんとなく似ており、ブタナ(豚菜) Hypochaeris radicata もキク科だからで混同されるのかもしれません。
しかし、ブタナは大きく黄色い頭花を作り、どちらかというとタンポポに近いという印象を受けるでしょう。
こちらもむしろブタクサとの共通点を探すほうが難しいほど異なっています。
なお、ブタクサの和名は英名の俗名である「hogweed (ブタの草)」を翻訳したものが由来しており、ブタナの和名はフランスでの俗名「Salade de porc(ブタのサラダ)」を翻訳したものが由来となっているようです。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
大久保公裕. 2014. 花粉症 その原因物質とメカニズム. モダンメディア 60(12): 1-5. ISSN: 0026-8054, https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM1412_01.pdf
RBG Kew. 2023. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/