ヤブマオ・カラムシ・ラミー・イラクサはいずれもイラクサ科に含まれ、細かい葉脈と細かい鋸歯が目立つ葉をもつ点で共通しています。山野などに生え身近な草本です。カラムシやラミーは繊維として利用されることでも有名です。しかし、イラクサ科の分類が複雑で花にも特徴が少ないためか混同されることが多いようです。近縁種や雑種がとても多いのでここで完璧な区別方法は示せませんが、これら4種に限るなら茎・葉・花を総合的に観察することで区別できるでしょう。本記事ではイラクサ科の有名な種類の分類・形態について解説していきます。
ヤブマオ・カラムシ・ラミー・イラクサとは?
ヤブマオ(藪苧麻) Boehmeria japonica var. longispica は日本の北海道〜九州;朝鮮・中国東部に分布し、山野に生える多年草です。
カラムシ(苧・枲・苧麻) Boehmeria nivea var. concolor f. nipononivea は別名クサマオ(草苧)、苧麻(ただし別変種のナンバンカラムシ var. nivea を含む可能性あり)。日本の本州・四国・九州・琉球;アジア東部~南部に分布し、路傍や林縁に生える多年草です。学名は中国の図鑑では Boehmeria nivea var. tenacissima です(Wu et al., 2003)。
ラミー Boehmeria nivea var. candicans は中国などで繊維用に栽培されるカラムシの変種です。日本には分布しません。
イラクサ(刺草・蕁麻) Urtica thunbergiana は日本の本州・四国・九州;朝鮮に分布し、林縁に生える多年草です。
いずれもイラクサ科に含まれ、細かい葉脈と細かい鋸歯が目立つ葉をもつ点で共通しています。山野などに生え身近な草本です。
このうち、カラムシとラミーの茎の皮から採れる靭皮繊維は麻などと同じく非常に丈夫であることが知られ、中国ではラミー、日本では江戸時代以前はカラムシやナンバンカラムシから繊維が生産されていました。
カラムシは日本では奈良時代に成立した『日本書紀』から既に登場し、糸・布・衣服の原料となってきました。
ただ繊維自体は丈夫ではあるものの、大量生産の難しさから他の繊維や合成繊維との競争の結果、生産量は減少しており、日本でも利用はカラムシからラミーに移り変わり、今でも生産しているのは日本では福島県会津地方の昭和村のみです。
ラミーは日本ではラミーそのものよりもラミーカミキリ Paraglenea fortunei という甲虫が有名かもしれません。ラミーを食草として付着したものが日本に侵入しましたが、食草は広く、現在では自生するカラムシを含むイラクサ科草本についています。
このように利用する機会は減っていますが、今でも野草としては身近で、歴史的には日本を支えてきた重要な植物も含まれています。しかし、イラクサ科の分類が複雑なためか極めて混同されています。
インターネットでは「カラムシ=苧麻=ラミーである」といった記述を見かけますが、これは分類の考え方によっては間違いです。少なくとも日本では別物として扱われています。(ただし、変異が大きく複雑すぎるため世界的には変種に分けず同一種とする考えもあります(RBG Kew, 2024)。)
ヤブマオ・カラムシ・ラミー・イラクサの違いは?
イラクサ科は種類が多く、上記4種以外の別種や雑種に加えて、種内でも細かい変異が大きく判別が困難な場合があります。そのため上記4種が区別ができても正確な同定はできず、更に詳しく調べる必要があります。
ただ今回は有名な種類の大まかな違いを掴むために4種に限って違いを考えてみましょう。
まず、学名からも分かるように4種はヤブマオ属に含まれるヤブマオ・カラムシ・ラミーとイラクサ属に含まれるイラクサに大別されます(神奈川県植物誌調査会,2018)。
ヤブマオ・カラムシ・ラミーでは刺毛がないのに対して、イラクサでは刺毛があるという違いがあります。
これは簡単で、要するにイラクサでは刺さると痛いトゲがあるということです。
残り3種に関しては、ヤブマオでは葉が対生で、花序の枝の基部は分岐しないのに対して、カラムシとラミーでは葉が互生で、花序の枝は基部から分岐し集散花序となるという違いがあります。
分類上はこの2点が重要視されますが、花にも違いが確認できます。ヤブマオでは雌花の雌しべが長く目立ちますが、カラムシとラミーでは雌花の雌しべが短く目立ちません。
カラムシとラミーの違いは?ナンバンカラムシとの違いは?
カラムシとラミーの違いに関しては変種レベルの違いしかなく、大きな違いではありません。
具体的には、カラムシでは葉下面の白色の綿毛はあっても茎上部の葉のみに限られ、茎や葉柄の毛は伏す傾向にあるのに対して、ラミーでは茎の下部の葉まで下面に雪白色の綿毛があり、茎の上部や葉柄にあらい開出毛が密生するという違いがあります。
実用的には、茎の毛を確認するだけで十分でしょう。
しかし、「茎の下部の葉まで下面に雪白色の綿毛があり、茎の上部や葉柄にあらい開出毛が密生する」という特徴は実は別変種のナンバンカラムシと全く同じです。
ナンバンカラムシとラミーの違いとしては、ラミーの方が大型の栽培種であるとされていますが、具体的にどのくらい大きければラミーであるという定義は私の調査では確認できていません。
ラミーは日本には少なくとも自生はせず、野外で「茎の下部の葉まで下面に雪白色の綿毛があり、茎の上部や葉柄にあらい開出毛が密生する」個体を見かけた場合はナンバンカラムシの可能性が高いでしょう。なお、ナンバンカラムシも元々は栽培されていた変種が逸出し、野生化したものです。
カラムシの品種として葉下面が白くならず緑のままのアオカラムシ Boehmeria nivea var. concolor f. concolor があります。
また、他の変種として、沖縄に分布し葉の裏面が白いが綿毛がないノカラムシ Boehmeria nivea var. viridula も知られています。
現状の日本の分類では以上のように別れますが、世界的には上述のように詳しく分けない考えがあります(RBG Kew, 2024)。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
RBG Kew. 2024. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/
Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y., eds. 2003. Flora of China. Vol. 5 (Ulmaceae through Basellaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781935641056