ボケ(木瓜)とクサボケはどちらもバラ科ボケ属に含まれ、落葉低木でかつ、展葉と鮮やかな開花が同時期に行われる点が特徴的です。そのためか、特にボケは園芸ではかなり人気で頻繁に植えられているのを見かけます。更に果実は食用にもなります。しかし、ボケとクサボケは似た部分が多く混同されることが多いでしょう。2種の区別点は図鑑では明確に指摘されているものの、意外に中間的な場合も多く区別は難しいことがあります。基本的には樹木の大きさと匍匐枝の有無が重要で、追加で葉・花・果実を総合的に観察する必要あります。ウメやツバキとはかなり見た目は異なっています。本記事ではボケ属の分類について解説していきます。
ボケ・クサボケとは?
ボケ(木瓜) Chaenomeles speciosa は中国原産で、日本・朝鮮・ヨーロッパ・アメリカ合衆国などで観賞用に栽培される落葉低木です。日本では庭木や公園の植栽としてきわめて一般的で、稀に逸出と思われる株が野外で見られます。
クサボケ(草木瓜) Chaenomeles japonica は日本の本州・四国・九州に分布し、日当たりの良い草地や雑木林に生え、伐採跡や林縁にも多い落葉小低木です。シロバナクサボケ f. alba は花が白色の品種。ヤエクサボケ f. plena は八重咲きの品種。
どちらもバラ科ボケ属に含まれ、落葉低木でかつ、展葉と鮮やかな開花が同時期に行われる点が特徴的です。そのためか、ボケは園芸ではかなり人気で頻繁に植えられているのを見かけます。
ボケの果実はジャムやはちみつ漬け、シロップ、果実酒などに加工して食用にされることもあります。
名前が面白く「呆け」という悪口のようにも感じますが、これは全く関係なく果実の形が瓜に似ていることに由来し、木になる瓜として「木瓜」となり、それがボケに変わったとされるのが有力です。
形態的には葉がスプーン状で鋸歯がある点、葉の基部に大きめの托葉がある点が大きな共通点として挙げられ、他種からの識別するときにも重要な手がかりとなります。
その他にも細かいですが、心皮に多数(4~多数)の胚珠がある点、花柱は5個で基部は癒合する点、萼片は脱落する点なども共通しています。
そのためこれらの違いが分からない人は多いかもしれません。
ボケとクサボケの違いは?
ボケとクサボケの識別方法は科学的には明確に定義されています(神奈川県植物誌調査会,2018;林,2019)。しかし現実には想像以上に難しい場合があります。
まず大前提として日本ではボケは園芸種ですが、クサボケは野生種です。そのため、都市部で見かければボケ、野生下で見かければクサボケである可能性は高いですが、ボケは稀に野生下に逸出することがありますし、クサボケが植栽されることがある点も注意が必要です。
最も重要な形態的な違いとして挙げられるのは、ボケでは高さ50cm~3mほどになる低木として育ち、直立叢生するのに対して、クサボケでは高さ数10~100cm以下の小低木として育ち、幹の基部は長く匍匐するというというものです。
要するにボケの方がクサボケより大きく、まっすぐ育つということです。このことが確認できる場合はそれだけで区別できるでしょう。
ただ生長途中の小型の個体の場合はこれだけでは区別が難しいかもしれません。
図鑑では葉の違いもよく書かれています。
ボケでは葉が鋭鋸歯縁で、葉先は尖るものが多いのに対して、クサボケでは内に曲がった鈍鋸歯縁で、葉先は円いものが多いというものです。また、葉の大きさ自体はクサボケの方が少し小さいです。
ただこの点も個体内・個体間で変異が大きく、逆の特徴を持つ葉もかなり見られることがあることからあまり実用的でないように思えます。
花や果実がある時期ならばもう少し明確な手がかりとなります。
花に関しては、ボケでは花弁の細い基部が短くその結果、花弁と花弁の間がないのに対して、クサボケでは花弁の細い基部が長くその結果、花弁と花弁の間に隙間があることが多いです。色もボケでは赤色・ピンク色・白色であるのに対して、クサボケでは朱色か稀に白色です(白色の個体はシロバナクサボケ f. alba と呼ばれる)。
果実に関しては、ボケでは大きく長楕円形であることが多いですが、クサボケでは小さく球形に近いことが多いです。ただしこれも例外が多いです。
このようにサイズ以外に明確な区別点は少ないです。これはボケの中にボケとクサボケの雑種であるアイノコボケChaenomeles x superba が混じっていることも原因でしょう。
まとめると、様々な部分を参照しつつ、「匍匐枝」の有無を確認して、なければボケ、あればクサボケとするのが良さそうです。町中で見かける多くはボケとして良いでしょう。
ボケとウメ(梅)やツバキ(椿)との違いは?
ボケとウメ Prunus mume やヤブツバキ Camellia japonica との違いもインターネットではよく検索されているようです。
どちらも冬~春にかけて咲くことから混同されるのかもしれません。特にウメはウメ科でボケと同じで花の形もかなり似ています。
ボケとウメは花の雌しべの数を確認することで区別できます。
ボケは雌しべが5本であるのに対して、ウメは0~1本しかないため遠目には雄しべしか無いように見えることが多いでしょう。
その他、葉の形は全く異なり、ウメの葉はボケのようにスプーン状にはなりません。
果実はウメの果実は勿論梅干しで見るように小型で、ボケのような大型の歪な形にはなりません。
ツバキはボケとは全く異なるツバキ科で、花は大型で常緑樹であるため冬でも光沢のある葉がついています。
引用文献
林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726