ハマダイコン・ハナダイコン(ハナスズシロ)・ショカツサイ(オオアラセイトウ)はいずれもアブラナ科に含まれ、名前に「ダイコン」が含まれることがあり、観賞用・食用いずれかの目的で栽培され、野生化したこともある草本です。紫系統の十字花を付ける点が似ている他、和名は多数ありショカツサイを「ハナダイコン」と呼ぶ例もあるなどかなりややこしい仲間です。しかし、果実があれば果実を、なくても葉や茎を観察することで比較的簡単に区別することができるでしょう。本記事ではハマダイコン・ハナダイコン・ショカツサイの分類・形態について解説していきます。
ハマダイコン・ハナダイコン(ハナスズシロ)・ショカツサイ(オオアラセイトウ)とは?
ハマダイコン(浜大根) Raphanus sativus var. hortensis f. raphanistroides は日本全国に分布し、海岸や河川敷に生える越年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。由来は諸説あり、栽培種のダイコン Raphanus sativus var. hortensis が逸出して(逃げ出して)野生化したという考えもありますが、近年ではもっと古い時代(弥生時代以降)にユーラシア大陸に分布していた野生個体群が日本に穀類とともに渡来し、完全に野生環境に適応した個体群であるとする説が有力になりつつあります(藤田,2004;伴ら,2009)。ダイコンのように根の利用は山陰地方を除いて一般的ではなく、未熟な茎葉および花穂を食用にすることがあります(伴ら,2009)。
ハナスズシロ(花清白) Hesperis matronalis は別名ハナダイコン(花大根)、セイヨウハナダイコン(西洋花大根)、スイートロケット。地中海沿岸のヨーロッパ・コーカサス・トルコに分布する越年草(日本では越冬できないので一年草)です。日本を含む世界中で観賞用や葉(ハーブ)の食用に栽培され、撹乱地などに逸出している地域があります。日本では各地で逸出し、特に北海道では帰化しています。
ショカツサイ(諸葛菜) Orychophragmus violaceus は別名ハナダイコン、オオアラセイトウ(大紫羅欄花)、ヒロハハナダイコン(広葉花大根)、ムラサキハナナ(紫花菜)。中国原産で日本へは江戸時代に渡来し栽培されていたものが広く野生化することがある一年草~越年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。観賞用としての用途が主ですが、若い葉や花芽などは食べられるため、中国では野菜として栽培され、種子からはアブラナと同様に油を採取することもあり、戦後にその目的で栽培されたことがあります。「諸葛菜」という名前は面白いですが中国三国時代の蜀漢の軍師である諸葛孔明が陣を張ったときに真っ先にこの花の種子を播いたという伝説に由来すると言います。
いずれもアブラナ科に含まれ、名前に「ダイコン」が含まれることがあり、観賞用・食用いずれかの目的で栽培され、野生化したこともある草本です。
花がアブラナ科特有の十字状に4枚の花弁が対になってつく「十字花」である点は勿論ですが、花が紫系統の色で、葉は柔らかめで鋸歯がある点など形態的にもよく似ています。
更に、ハナダイコンというとハナスズシロ Hesperis matronalis を指す場合と、ショカツサイ Orychophragmus violaceus を指す場合があり非常にややこしいです。
そのため、判断に迷ってしまうことは多いかもしれません。
以下ではハナダイコンだと曖昧なので、最も信頼できる学名と和名の対応リストである『Ylist』に従ってハマダイコン・ハナスズシロ・ショカツサイで統一して解説していきます。
ハマダイコン・ハナスズシロ・ショカツサイの違いは?
利用方法という観点で見れば、ハマダイコンは野生種として海岸や河川敷で見られるのみであるに対して、ハナスズシロとショカツサイは観賞用や食用に栽培されているものが、野生化しています。
そのため出会うシチュエーションは異なっているでしょう。
形態的な違いも考えてみましょう。
大前提として、これら3種は学名を見て分かるように全く別の属に含まれています。そのため、体の構造に大きな違いが見られます。
最も大きな違いが現れているのが果実です。3種はアブラナ科なので果実は角果で、「弁(valve)」と呼ばれる2枚の果皮(心皮が発達したもの)と種子に別れており、弁の中に種子が複数入る構造です。
ハマダイコンでは角果が明らかに太く、熟しても裂開せず、種子も巨大で普通4個以下しか含まれないのに対して、ハナスズシロとショカツサイでは角果が明らかに細く線状で、熟すと裂開し、種子は多数含むという違いがあります。
ハマダイコンは角果が水に浮き、流されることで生息地を広げるという「水流散布」を行っています(Han et al., 2015)。そのため河川敷や海岸で生えているのです。一方、ハナスズシロとショカツサイは角果が裂開することで「自動散布」を行っています。
ハナスズシロとショカツサイに関しては、ハナスズシロでは角果には太い4本の稜(尖っている角の部分)があるのに対して、ショカツサイでは稜がなく丸いという違いがあります。
ただ、果実が無い期間に3種のような個体を発見するときもあるかもしれません。その場合は葉と茎を確認するしかありません。
アブラナ科では根出葉(根から出る葉)と茎葉(茎から出る葉)の形が異なることが多いですが、このうち茎葉に関しては、ハマダイコンでは葉先が丸いのに対して、ハナスズシロとショカツサイでは葉先が尾状に尖っています。
そして、ハナスズシロでは茎と葉が有毛ですが、ショカツサイでは無毛です。
花の色はハマダイコンは部分的に花弁の先が紫色、ハナスズシロでは一様に紫色か白色、ショカツサイでは大部分が淡紫色で基部が白色であることが多いですが、個体差が大きく参考程度にするのが良いと思います。
引用文献
伴琢也・小林伸雄・本谷宏志・門脇正行・松本真悟. 2009. ハマダイコンの栽培化と利用について. 園芸学研究 8(4): 413-417. https://doi.org/10.2503/hrj.8.413
藤田智. 2004. 恵泉野菜の文化史 (1) ダイコン. 恵泉女学園大学園芸文化研究所報告 園芸文化 1: 54-60. ISSN: 1882-5044, https://keisen.repo.nii.ac.jp/records/733
Han, Q., Higashi, H., Mitsui, Y., & Setoguchi, H. 2015. Distinct phylogeographic structures of wild radish (Raphanus sativus L. var. raphanistroides Makino) in Japan. Plos One 10(8): e0135132. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0135132
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726