バジル・スイートバジル・ホーリーバジル・レモンバジルはいずれもシソ科メボウキ属でアジア原産である点、葉が食用にされる点が共通しています。そのため形や利用方法の違いがわからない人は多いでしょう。バジルというとシソ科メボウキ属の仲間を総称するか、メボウキ(スイートバジル)という1種類の植物を指しますが、他は個々の種類を指す言葉です。それぞれは「品種」ではなく「種」レベルの違いを持ち、その違いは花や葉の形に現れています。利用法はバジル・ホーリーバジル・レモンバジルそれぞれ歴史的な違いがありますが、現在の日本での利用方法の違いだけを考えれば、バジルはイタリア料理に用いるもの、ホーリーバジルはガパオライスに用いるもの、レモンバジルはエスニックな炒めものに用いるものと考えてかまいません。花は唇形花で、果実は小堅果です。本記事ではメボウキ属の分類・形態・利用方法について解説していきます。
バジル・スイートバジル・ホーリーバジル・レモンバジルとは?
バジルとは一般的にシソ科メボウキ属の仲間を総称するか、メボウキ(スイートバジル)という1種類の植物を指します。
メボウキ(目箒) Ocimum basilicum は一般名バジル、スイートバジル。南アジア・東南アジア・オーストラリア原産の多年草(日本では越冬できないので一年草)です(RBG Kew, 2023)。薬用・食用に世界中で栽培され、日本でも栽培され、主にイタリア料理で用いられています。以下ではバジルと呼んでいきます。
カミメボウキ(神目箒) Ocimum tenuiflorum は一般名ホーリーバジル、ガパオ。南アジア・東南アジア・オーストラリア原産の多年草(日本では越冬できないので一年草)です。インド・タイで薬用・食用に栽培されます。日本で栽培されることもあります。
レモンバジル Ocimum x africanum はメボウキ(一般名:バジル)とヒメボウキ(一般名:アメリカバジル) Ocimum americanum の雑種で、熱帯~亜熱帯アフリカと南アジア・東南アジア・オーストラリアが原産の多年草(日本では越冬できないので一年草)です。日本でも栽培されます。
いずれもシソ科メボウキ属でアジア原産である点、葉が食用にされる点が共通しています。そのため、形や利用方法の違いがわからない人は多いでしょう。
バジル・ホーリーバジル・レモンバジルの形の違いは?
園芸サイトなどではバジルの品種であるジェノベーゼバジル、ブッシュバジル、シナモンバジルと並んで、ホーリーバジルやレモンバジルが紹介されることがあります。
しかし、そもそもとしてバジル・ホーリーバジル・レモンバジルは生物学的には変異が大きく、自然下で交配することはない全くの別種であることは抑えておきましょう。「品種」は生物学的にはヒトの手によって改良されたものか、僅かに形の変異があるものを指す言葉です。
生物学的にはまず、バジルとレモンバジルでは後部の雄しべの花糸の基部が歯状になっているのに対して、ホーリーバジルでは歯がないという違いがあります(Wu & Raven, 1994)。
しかし、この部分は外からは見えない上に、普通花は取ってしまうので、あまり実用的ではないかもしれません。
花には他にも違いがあり、バジルやレモンバジルの花冠では白色であるのに対して、ホーリーバジルでは白色がベースですが部分的に赤みがかり全体としてはピンク色に見えるという違いがあります。
葉では変異が大きく必ず当てはまるとは限りませんが、バジルとレモンバジルでは鋸歯が低く全縁に近い場合も多いのに対して、ホーリーバジルでは低いもののはっきり鋸歯が確認できるほど大きいという違いがあります。
ホーリーバジルでは葉柄に必ず長毛が生えているのでこの点も特徴でしょう。しかし、バジルにも長毛が生える変種が知られています。しかし日本では少ないようなのでこの点も大きな特徴と言えそうです。
バジルとレモンバジルの違いとしては、バジルでは普通葉に光沢があり、葉脈の間が盛り上がり、上に向かって反り返るのに対して、レモンバジルでは普通葉の光沢が弱く、葉脈の間の盛り上がりは低く、上に向かって反り返ることはない点が挙げられます。しかし、品種によって多少差がある可能性はあります。
名前の通り、レモンバジルではレモンの風味があることは形ではないですが区別する上では手がかりになるでしょう。
バジル・ホーリーバジル・レモンバジルの利用方法の違いは?
利用方法としてはそれぞれでかなり歴史的な違いが見られます。
バジルはアジア原産ではあるものの、古代エジプト人や古代ギリシア人には既に利用されており、現在では世界中で利用されています。最初は儀式での使用や薬用が主でしたが、現在では食用での用途が広がっています。日本では元々、清(中国)から薬草として伝わりましたが、現在ではパスタやピザ、サラダ、ジェノベーゼのようなイタリア料理を作る際に利用するのが一般的でしょう。
味としてはさわやかで甘い香りがあり、口に含むと甘みの後にピリッとした辛味を感じます。
一方、ホーリーバジルは原産地のアジアのみで利用され、インドでアーユルヴェーダで薬として用いられ、タイでは炒め物やカレーに食品(ハーブ)として用いられます。日本でも有名なものはガパオライスでしょう。またお茶として利用される場合もあります。
味としては香りが強く、スパイシーな刺激の中にミントのような清涼感があるとされます。甘い香りがなくよりスパイシーというのがバジルとの違いであると言えそうです。
レモンバジルはアフリカ~アジアまで広く栽培されることもあり、アラビア料理、インドネシア料理、フィリピン料理、ラオス料理、マレー料理、ペルシャ料理、タイ料理で利用されます。日本では特別の利用方法はないものと思われますが、炒めものやサラダなどに利用されることが多いでしょう。
味としては名前の通りレモンの風味があります。
花の構造は?
多くのシソ科のようにメボウキ属は共通で唇形花を持っています。唇形花は筒状の花冠の先が上下の二片に分かれ、唇のような形をしたものです。
栽培する際は普通花咲かせると葉や茎が固くなり、味も落ちるので、葉を収穫するために育てているなら、適切なタイミングに摘花が必要になってきます。
バジルは花期が7~9月。密穂花序は長さ10~20cm、微軟毛があり、輪散花序には微軟毛または密に軟毛があり、頂部も同じです。苞は無柄、倒披針形、長さ5~8mm、基部は漸尖形、縁毛があり、先は鋭形、色がつきます。花柄は花時に長さ約3mm、果時に長さ5mm以下。萼は鐘形、約長さ4mm×幅3.5mm、外側は有毛、内側ののど部に軟毛があり、筒部は長さ約2mm、萼の上唇の中央の萼歯は最も幅が広く約長さ2mm×幅1mm、類円形、凹形、先は微突形。側歯は広卵形、長さ約1.5mm、先は鋭形。萼の下唇の萼歯は披針形、長さ約2mm、先は刺状、縁毛があります。果時の萼は宿存し、脈が目立ちます。花冠は帯紫色または上唇が白色、拡大部の外側に微軟毛があります。花冠筒部は長さ約3mm。上唇は広く、約長さ3mm×幅4.5mm、4裂し、ほぼ平ら。下唇は紫色、長さ約6mm。雄しべは分離、わずかに突き出し、後ろ側の2個は歯があり、基部に微軟毛があります。
ホーリーバジルは花期が6~8月。6~8cmの密穂花序または円錐花序をつけます。総苞片は無柄で心形、約1.5×1.5mm、先端は鋭く、花柄は1~1.5cm。小花柄は約2.5mm。萼片は2.5mmの輪生、軟毛があり、花筒は約1.5mm。上唇の中程の鋸歯は広楕円形で急に尖り、側方の鋸歯は広角三角形で下唇の鋸歯より短くとがり、下唇の鋸歯は披針形で先端はとがります。花冠は白色から赤みを帯び、約3mm、わずかに隆起し、まばらに軟毛があります。上唇は1×2.5mm以下の卵形、下唇は約1×0.6mmの長楕円形で平たい。雄しべはやや突き出します。後ろ側の花糸の基部は多毛。
レモンバジルは花期が7~9月。バジルの花とよく似ています。
果実の構造は?
メボウキ属の果実は共通で小堅果です。小堅果は堅く木化した果皮が1個の種子を包み、裂開しない堅果のうち小型のものです。湿ると水分を含みます。「メボウキ」という和名は果実が水分を吸収するとすぐにゼリー状の物質に包まれるようになり、これが目に入ったゴミをとるのに役立ったというところから名付けられたとされています。
バジルの小堅果は暗褐色、卵形、約長さ2.5mm×幅1mm、凹腺点があります。
ホーリーバジルの小堅果は子房は褐色、卵形、約1×0.7mm、凹腺点があります。
引用文献
RBG Kew. 2023. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/
Wu, Z. Y., & Raven, P. H. eds. 1994. Flora of China. Vol. 17 (Verbenaceae through Solanaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. 342pp. ISBN: 9780915279241