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なぜ緊張すると脇汗が出るのか? 恐怖や不安を伝える「フェロモン」の働きを論文から解説

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大勢の前で発表するとき、大事な面接を受けるとき、初めてのことに挑戦するとき。暑くもないのに、脇から汗が流れてきた経験はないでしょうか。

実は、緊張したときに出る脇汗には、体温を下げるだけでは説明できない興味深い側面があります。

人間の汗には、恐怖や不安などの感情に関する情報を、においを通じて他人に伝える働きがあると考えられています。

2009年には、不安を感じている人の汗を別の人に嗅いでもらい、脳活動への影響を調べた研究が発表されました。さらに、2020年には、恐怖を感じている人の汗に含まれる化学物質を分析し、恐怖の強さと汗の化学的な特徴との関係を調べた研究も発表されています(Prehn-Kristensen et al., 2009; Smeets et al., 2020; de Groot et al., 2020)。

では、なぜ緊張すると脇汗が出るのでしょうか。そして、その汗は他人に何を伝えているのでしょうか。

この記事では、実際の研究論文をもとに、緊張と脇汗の関係、フェロモンの働き、そして人間の化学的コミュニケーションが進化の過程で持っていた可能性のある意味を解説します。

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*This website is originally in Japanese. Other languages are automatically translated and may contain errors in scientific names or technical terms.

なぜ緊張すると脇汗が出るのか?

汗は暑いときだけに出るわけではない

汗には、暑さによって体温が上がりすぎるのを防ぐ役割があります。しかし、人間は暑くなくても汗をかきます。

緊張、恐怖、不安などの心理的な刺激に反応して起こる発汗は「精神性発汗」と呼ばれます。

例えば、プレゼンテーションの直前に緊張すると、心臓がドキドキしたり、手のひらが湿ったり、脇汗が出たりします。

これは、身体が心理的な刺激に反応し、自律神経系を通じて汗腺の活動を変化させるためです。

脇には、体温調節に関わるエクリン汗腺と、体臭に関係するアポクリン汗腺の両方が存在します。どちらも脇の発汗や体臭を理解するうえで重要ですが、それぞれの働きは異なります(Wilke et al., 2007)。

脇汗と体臭には、どのような関係があるのか?

エクリン汗腺は全身に分布し、汗を蒸発させることで身体を冷やします。一方、アポクリン汗腺は主に脇などに分布し、思春期以降に発達します。

アポクリン汗腺の分泌物には脂質やタンパク質などが含まれ、皮膚にいる細菌がその成分を代謝することで、特徴的な体臭が生じます。

つまり、緊張によって汗が増えることと、脇のにおいが生じることは関連していますが、同じ現象ではありません。

重要なのは、汗や体臭が身体の状態に関連する化学物質を周囲に放出する経路にもなっているという点です。

緊張した人の汗は、他人に不安を伝える

では、緊張したときの汗は、他人にどのような影響を与えるのでしょうか。

この疑問を調べた研究があります。

研究1:不安を感じた人の汗は、他人の脳に影響する

Prehn-Kristensen et al.(2009)は、大学の口頭試験を控えた人から汗を採取し、別の参加者に提示する実験を行いました。比較対象として、運動中に採取した汗も使用しました。

その結果、不安を感じている人の汗は、共感や社会的な感情の処理に関係する脳領域の活動を引き起こしました。

興味深いのは、汗のにおいをはっきりと意識できるかどうかだけでは、その影響を説明できないという点です。人間は、においを明確に言葉で認識していなくても、そこに含まれる化学的な情報に反応する可能性があります。

つまり、他人の不安に関する情報は、言葉や表情だけでなく、においを介しても伝わる可能性があるのです。

研究2:ストレス時の汗は、危険に関係する脳の反応を引き起こす

Mujica-Parodi et al.(2009)は、心理的なストレスを経験した人の汗と、運動中にかいた汗を比較しました。

その結果、心理的ストレス時の汗を嗅いだ参加者では、恐怖や情動的に重要な情報の処理に関係する脳領域である扁桃体の活動が確認されました。

さらに、ストレス時の汗にさらされた参加者は、曖昧な表情から感情を読み取る際にも変化を示しました。

例えば、相手の表情だけでは感情を判断しにくい場面でも、ストレスに関連するにおいが、その表情をどのように解釈するかに影響する可能性があります。

この研究から考えられるのは、ストレス時の汗が、周囲の人が状況を判断する際の手がかりにもなるということです。

汗には「恐怖の強さ」まで記録されている?

ここで、さらに興味深い研究を紹介します。

de Groot et al. (2020) は、恐怖を感じている人の汗に、恐怖の強さに関する情報まで含まれているのかを調べました。

研究3:恐怖が強いほど、汗の化学的な特徴も変わる

研究者たちは、36人の男性参加者に恐怖を感じさせる映像と、落ち着いた映像を見せ、それぞれの状況で脇汗を採取しました。そして、参加者の生理反応や主観的な恐怖の程度と、汗から放出される揮発性物質を分析しました。

その結果、恐怖の強さに応じて参加者を「低・中・高」の3段階に分類したところ、約83%を正しく分類できました。これは、偶然に分類した場合の約33%を大きく上回る結果です。

また、強い恐怖を感じたグループでは、脇汗の量が多く、汗から放出される揮発性物質の量も多い傾向が確認されました(de Groot et al., 2020)。

この結果は、汗が単に「恐怖を感じているか、感じていないか」という違いだけでなく、恐怖の強さに関連する情報も含み得ることを示しています。

ただし、これは汗を嗅いだ人が相手の恐怖の強さを正確に読み取れることを直接証明したわけではありません。また、参加者が男性に限られていることにも注意が必要です。

それでも、恐怖の強さと汗の化学的な特徴が関連しているという発見は、人間の体臭が情動情報を伝える仕組みを理解するうえで重要です。

恐怖・幸福・中立状態では、汗に含まれる化学物質が異なる

では、恐怖や不安を伝えているのは、具体的にどのような物質なのでしょうか。

この疑問に取り組んだのが、Smeets et al.(2020)の研究です。

研究4:感情によって汗の「化学的な指紋」が変わる

研究者たちは、同じ人から恐怖を感じているとき、幸福を感じているとき、そして感情的に中立な状態のときに脇汗を採取し、含まれる揮発性物質を分析しました。

その結果、恐怖状態の汗と中立状態の汗では、化学的な組成のパターンが明確に異なっていました。また、幸福状態の汗も、ほかの状態とは異なる化学的特徴を示しました。

分析では、直鎖アルデヒド、ケトン、エステル、環状化合物などの物質群が、感情状態に関連する候補として挙げられています(Smeets et al., 2020)。

これは、感情の変化に伴って、脇汗に含まれる揮発性物質の組み合わせが変化する可能性を示しています。

ただし、研究者たちは感情を伝える単一の「恐怖物質」を特定したわけではありません。複数の物質が組み合わさった化学的なパターンが関係している可能性があります。

つまり、人間の汗には、身体の状態に関する情報を反映した「化学的な指紋」が存在する可能性があるのです。

研究をまとめると、汗はどのような情報を伝えるのか?

ここまで紹介した研究を整理すると、人間の汗が他人に与える影響について、次のようなことがわかります。

  • 脳活動への影響: 不安やストレスを経験した人の汗は、嗅いだ人の共感や恐怖に関係する脳活動に影響する可能性があります。
  • 感情の手がかり: 汗のにおいは、他人の情動状態を判断する際の手がかりになる可能性があります。
  • 恐怖の強さ: 恐怖の強さと、汗の量や揮発性物質の特徴が関連することが報告されています。
  • 化学的な違い: 恐怖・幸福・中立状態では、汗に含まれる揮発性物質の組成パターンが異なる可能性があります。

これらの研究は、汗が単なる排泄物ではなく、身体の状態に関連する化学的な情報を周囲に伝える媒体になり得ることを示しています。

さらに、Calvi et al.(2020)は、人間同士および人間とほかの動物との間で起こる、感情に関連した化学的コミュニケーションの研究を体系的にレビューしました。

このレビューでは、恐怖やストレスだけでなく、幸福に関係する体臭も取り上げられています。また、人間の感情に関連する化学的な手がかりが、犬や馬などの行動やストレス反応に影響する研究もまとめられています。

一方、研究ごとに方法や測定対象が異なり、汗に含まれる作用物質の正体も十分には解明されていないことが指摘されています(Calvi et al., 2020)。

つまり、脇汗はフェロモンなのか?

ここまでの研究を踏まえると、脇汗とフェロモンの関係が見えてきます。

フェロモンとは、ある個体から体外に放出された化学物質が、同じ種の別の個体に作用し、特定の反応を引き起こすものです。

この定義に照らすと、人間の汗が他人の脳活動や感情の処理に影響するという研究結果は、フェロモンによる化学的コミュニケーションという考え方に合致します。

人間の汗には、恐怖や不安などの感情に関する情報を他人に伝える、フェロモン的な働きがあると考えられます。

ただし、汗に含まれるどの化学物質が作用しているのか、どのような組み合わせで反応が起きるのかについては、まだ解明されていない部分があります。

人間のフェロモンについては、研究者の間でも議論がある

Wyatt(2015)は、人間のフェロモン研究を検討したレビューで、フェロモンとされてきた化学物質について、確かな実証的証拠が不足していると指摘しました。特定の物質が自然な濃度で作用することや、その物質を単離・同定して反応を再現できることなどを、フェロモンの特定に重要な基準として論じています。

一方、人間の汗が他人の反応に影響すること自体については、実験研究が蓄積されています。

例えば、de Groot and Smeets(2017)のメタ分析では、恐怖・ストレス・不安に関連する体臭を扱った26件の研究、計1,652人分のデータが分析され、体臭を介した感情情報の伝達を支持する結果が報告されました。

さらに、Calvi et al.(2020)の体系的レビューは、恐怖や不安に関する体臭が他者の社会的な判断や危険の検知に影響する研究をまとめています。Smeets et al.(2020)は、感情状態によって汗の化学的な特徴が異なることを示しました。

つまり、人間の汗が他人の反応に影響し、感情に関する情報を伝えることには、複数の実験研究による裏付けがあります。

フェロモンの定義や特定方法については議論があるものの、汗を介した化学的コミュニケーションは、人間の社会的な情報伝達を理解するうえで重要な研究対象になっています。

恐怖や不安を伝える仕組みは、進化的に何の役に立つのか?

では、仲間の汗のにおいから恐怖や不安に関する情報を受け取れるとしたら、それはどのような場面で役に立つのでしょうか。

仲間の危険を察知する

動物の世界では、化学物質を介して危険やストレスに関する情報が伝わり、周囲の個体の警戒や逃避反応に影響する例が知られています。

こうした仕組みがあれば、仲間が危険を感じていることを、視覚や聴覚だけに頼らず察知できる可能性があります。

人間の汗についても、ストレスに関する化学的な情報が他者の反応に影響するなら、仲間の心理状態を察知する仕組みとして働く可能性があります。

例えば、集団で行動しているときに、仲間の恐怖に関係する情報を受け取ることで、周囲の人が状況に注意を向けやすくなる、といった可能性が考えられます。

これは、恐怖やストレスに関する化学的な情報伝達が、集団生活のなかで役立つ可能性を示す進化生物学的な仮説です。

仲間の感情を共有する

もう一つ考えられるのが、仲間の感情を共有する働きです。

Prehn-Kristensen et al.(2009)の研究では、不安を感じた人の汗が、共感に関係する脳活動と結びついていました。

この結果は、他人の不安に関する情報を受け取ることで、相手の状態を理解するための処理が促される可能性を示しています。

集団で生活する人間にとって、仲間の状態を把握することは重要です。体臭を介した情報伝達が、社会生活のなかで役立ってきた可能性も考えられます。

ただし、汗を嗅いだ人が必ず不安になったり、相手を助けようとしたりするわけではありません。

発表前の脇汗は、周囲に何を伝えているのか?

では、初めてのプレゼンテーションを前にして、脇汗をかいている人がいたらどうでしょうか。

その汗に含まれる化学的な情報が、周囲の人の感情処理や注意に影響する可能性があります。

研究結果から考えられるのは、汗が本人の情動状態に関連する手がかりとなり、他人の反応に影響する可能性があるということです。

ただし、汗だけで「この人は初めて発表する」「失敗を恐れている」といった具体的な事情まで伝わるわけではありません。

また、聞き手が必ず緊張する、共感する、あるいは相手を弱いと判断するという証拠もありません。

現時点では、緊張時の汗が、恐怖や不安に関連する情報を伝える化学的な手がかりになり得る、と考えるのが適切です。

つまり、脇汗は単なる体温調節の産物ではなく、人間同士の化学的コミュニケーションという観点からも興味深い現象なのです。

まとめ:緊張時の脇汗には、感情を伝えるフェロモン的な働きがある

緊張すると脇汗が出るのは、心理的な刺激が自律神経系を介して汗腺の活動に影響するためです。

さらに、人間の汗に関する研究では、不安やストレスを経験した人の汗が、嗅いだ人の脳活動や感情の処理に影響することが報告されています。

2020年の研究では、恐怖の強さと汗の化学的な特徴が関連することや、恐怖・幸福・中立状態で汗に含まれる揮発性物質の組成パターンが異なることも示されました。

こうした知見は、人間の汗に含まれる化学物質が、同種の別個体に感情に関する情報を伝える可能性を示しています。

進化生物学的には、仲間の恐怖やストレスを察知することが、集団生活のなかで役立ってきた可能性も考えられます。

結論として、緊張時の脇汗には、恐怖や不安に関する情報を他人に伝えるフェロモン的な働きがあると考えられます。

その働きを担う具体的な化学物質や、警告や仲間の状態の把握といった進化的な機能については、今後の研究による解明が期待されます。

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References

Calvi, E., Quassolo, U., Massaia, M., Scandurra, A., D’Aniello, B., & D’Amelio, P. (2020). The scent of emotions: A systematic review of human intra- and interspecific chemical communication of emotions. Brain and Behavior, 10(5), Article e01585. https://doi.org/10.1002/brb3.1585

de Groot, J. H. B., Kirk, P. A., & Gottfried, J. A. (2020). Encoding fear intensity in human sweat. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 375(1800), Article 20190271. https://doi.org/10.1098/rstb.2019.0271

de Groot, J. H. B., & Smeets, M. A. M. (2017). Human fear chemosignaling: Evidence from a meta-analysis. Chemical Senses, 42(8), 663–673. https://doi.org/10.1093/chemse/bjx049

Mujica-Parodi, L. R., Strey, H. H., Frederick, B., Savoy, R., Cox, D., Botanov, Y., Tolkunov, D., Rubin, D., & Weber, J. (2009). Chemosensory cues to conspecific emotional stress activate amygdala in humans. PLoS ONE, 4(7), Article e6415. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0006415

Prehn-Kristensen, A., Wiesner, C., Bergmann, T. O., Wolff, S., Jansen, O., Mehdorn, H. M., Ferstl, R., & Pause, B. M. (2009). Induction of empathy by the smell of anxiety. PLoS ONE, 4(6), Article e5987. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0005987

Smeets, M. A. M., Rosing, E. A. E., Jacobs, D. M., van Velzen, E., Koek, J. H., Blonk, C., Gortemaker, I., Eidhof, M. B., Markovitch, B., de Groot, J. H. B., & Semin, G. R. (2020). Chemical fingerprints of emotional body odor. Metabolites, 10(3), Article 84. https://doi.org/10.3390/metabo10030084

Wilke, K., Martin, A., Terstegen, L., & Biel, S. S. (2007). A short history of sweat gland biology. International Journal of Cosmetic Science, 29(3), 169-179. https://doi.org/10.1111/j.1467-2494.2007.00387.x

Wyatt, T. D. (2015). The search for human pheromones: The lost decades and the necessity of returning to first principles. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 282(1804), Article 20142994. https://doi.org/10.1098/rspb.2014.2994

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