メナモミとコメナモミはいずれもキク科メナモミ属に含まれ、舌状花は黄色で小型で、総苞片は有柄の腺毛がある点が最大の特徴です。2種はそこまで頻繁ではないですが開けた場所で生え、特にメナモミは古来には日本人に発酵食品として使用されていました。しかし、区別はわかりにくく、オナモミとも混同している人もいるかもしれません。メナモミとコメナモミは毛や腺毛の生え具合で区別することができます。オナモミとは名前は似ていますが、花も果実も全く異なっています。メナモミ属の粘液を分泌する総苞片は動物に付着し種子散布する動物付着散布を行っていることが分かっています。
メナモミ・コメナモミとは?
メナモミ(豨薟、雌菜揉み) Sigesbeckia pubescens は日本の北海道・本州・四国・九州;朝鮮・中国に分布し、シイ・カシ帯とブナ帯下部の畑、道路の法面などに生える一年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。一説には弥生時代に中国から渡来したともされます(松原,2021)。
コメナモミ(小豨薟、小雌菜揉み) Sigesbeckia glabrescens は日本の北海道・本州・四国・九州;朝鮮から中国に分布し、畑や裸地に生える一年草です。
いずれもキク科メナモミ属に含まれ、舌状花は黄色で小型で、総苞片は有柄の腺毛があって開出し、痩果とともに脱落する点が最大の特徴です。
ようするに花や果実の周りにはネバネバした毛が生えています。総苞片というのはキク科特有で花の集まりである「頭花」を包むようにある緑色の葉のような部分を指しています。
2種はどこにでも生えているとは言い難いですかたまに開けた場所で生えているのを見かけます。しかし、区別方法はあまり知られていないかもしれません。
また、少なくとも中国の明代以降にはメナモミは未熟果を米こうじや小豆、その他の薬草と混ぜて手で揉んで(菜揉み)から発酵させ、「神麹」という強壮薬として使用されていましたが(奥津,2018;松原,2021)、同じく神麹に使用されたキク科のオナモミ(雄菜揉み) Xanthium strumarium subsp. sibiricum と対になる形で命名されており、現代でも混同する人はいるかもしれません。
メナモミとコメナモミの違いは?
メナモミとコメナモミは似ていますが主に2点で区別できます(神奈川県植物誌調査会,2018)。
メナモミでは茎と葉に密に長い毛があり、花柄に有柄の腺があるのに対して、コメナモミでは茎と葉は短毛があり、花柄に有柄の腺はないという違いがあります。
どちらも総苞片に腺毛があるものの、コメナモミでは花柄にまでは及んでいないという点に注意が必要です。
この2点でほぼ区別できますが、メナモミでは痩果が長さ2.5~3.5mmであるのに対して、コメナモミでは痩果が長さ2mmという違いもあります。
一般的にメナモミよりコメナモミの方が多く、普通に見られます。






メナモミとオナモミの違いは?
メナモミとオナモミは同じように神麹に使用されたことから雌雄として対になる名称となっていますが、実際には種レベルで異なり、雌雄では勿論ありません。それぞれ別種でどちらも雌雄同株です。
利用方法やキク科という点は類似していますが、他はほぼ似ているとは言い難いレベルで異なっています。
まず、花に関しては、メナモミでは花弁が黄色くなり昆虫にアピールする虫媒で、雄頭花と雌頭花がまとまってつくのに対して、オナモミでは黄色くならない目立たない風媒で、雄頭花は葉腋からでた短い花序に、雌頭花は雄花序の基部に集まってつくという違いがあります。
果実に関しては、どちらも動物付着散布でいわゆる「引っ付き虫」ですが、メナモミでは粘液によって動物に付着するのに対して、オナモミでは硬いフック状のトゲによって動物に付着するという違いがあります。
なお、現在日本で一般に見られる「オナモミ」はオナモミ Xanthium strumarium subsp. sibiricum という種類ではなく、外来種のオオオナモミ Xanthium orientale subsp. orientale に入れ替わっています。



種子散布方法は?
メナモミ属の仲間は総苞片は有柄の腺毛があり、更にメナモミでは花柄にまで腺毛が及んでいます。
この腺毛の役割は何なのでしょうか?
あまり国内の文献では指摘されていませんが、実は同属の種の研究から腺毛が横を通った動物に付着して遠くに分散する動物付着散布であることが分かっています(Heinrich et al., 2002)。
オナモミのように果実そのものに動物の毛につくフックがあるわけではなく、総苞片に粘着力のある粘液を分泌しており、この総苞片が痩果とともに脱落することで種子散布ができる仕組みとなっています。
また、腺毛が分泌する粘液の成分を調べた研究では粘液にはセスキテルペンと高分子量の他のテルペンが主成分として含まれており、まだ実証はされていませんが、単に粘着性を生み出しているだけでなく、植食性昆虫や病原菌を防いでいる可能性も指摘されています。メナモミの花柄の腺毛にはそのような役割があるのかもしれません。
ただ、具体的にどのような動物に付着しているかや、オナモミのような物理的な動物付着散布に比べてどのようなメリットがあるのかという点はまだ分かっていません。今後の研究課題と言えるでしょう。
引用文献
Heinrich, G., Pfeifhofer, H. W., Stabentheiner, E., & Sawidis, T. 2002. Glandular hairs of Sigesbeckia jorullensis Kunth (Asteraceae): morphology, histochemistry and composition of essential oil. Annals of Botany 89(4): 459-469. https://doi.org/10.1093/aob/mcf062
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
松原徹郎. 2021. 植物はあれもこれも薬草です(第21回)メナモミ:生葉、乾燥葉で風邪・リウマチ・動脈硬化の予防. 現代農業 100(9): 260-263. ISSN: 0289-3517, https://gn.nbkbooks.com/?p=40215
奥津果優. 2018. 知られざる漢方用薬―「神麹」―. 生物工学会誌 96(8): 476.
ISSN: 0919-3758, https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9608/9608_biomedia_5.pdf