テンニンギクとオオテンニンギクの違いは?似た種類の見分け方を解説!実は区別がかなり難しい…?

植物
Gaillardia pulchella var. picta

テンニンギクとオオテンニンギクはいずれもキク科テンニンギク属に含まれる草本で、頭花の花床が円球状または凸状に盛り上がり、2色からなる舌状花の花冠をつけることから特徴づけられるでしょう。その美しい色合いから観賞用や緑化用に栽培されることがありますが、テンニンギクとオオテンニンギクは国内外含めて非常に混同されています。実際区別が難しいですが一年草か多年草かの違い加えて、舌状花の花冠の色・根出葉の有無の違いもあるとされます。ただ雑種も存在し、明確に区別できないものも存在すると思われます。本記事ではテンニンギク属の分類・形態について解説していきます。

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テンニンギク・オオテンニンギクとは?

テンニンギク(天人菊) Gaillardia pulchella var. picta は別名インディアンブランケット、サンダンス。北アメリカ(アメリカ合衆国中部)に分布し、世界中に導入され日本でも観賞用に栽培されたものがときに逸出する一年草です(RBG Kew, 2025)。イギリスやアメリカでは変種区分はなくなり、var. picta は使用されなくなっています。

オオテンニンギク(大天人菊) Gaillardia aristata は別名シュクコンテンニンギク(宿根天人菊)。北アメリカ(カナダ・アメリカ合衆国北部)に分布し、世界中に導入され日本でも造成地の裸地を緑化するときに栽培されることがある多年草です。

いずれもキク科テンニンギク属(ガイラルディア)に含まれる草本です。ブランケットフラワーとも総称されます。外来種で美しい頭花を持つことから観賞用や緑化用に栽培されることがあります。

これらの仲間は多くのキク科と同様に「頭花(頭状花序)」をつけます。頭花とはキク科に多く見られ、他の植物における花が集合している花序(花の並び)のことです。その証拠にそれぞれの花に雄しべと雌しべの構造があり、特別に「小花」と呼ばれることもあります。普通の人は頭花のことを「花」と呼びますが、本来は異なります。

キク科の小花には花冠の先端が片方に大きく伸びて広がる「舌状花」と花冠が筒状になっている「筒状花(管状花)」の2種類があり、キク科の種類によって異なる組み合わさり方をしていますが、テンニンギク属では筒状花が頭花の中心にあり、周縁に舌状花があり筒状花を取り囲んでいます。

テンニンギク属特有の特徴は頭花の花床が円球状または凸状に盛り上がり、舌状花は赤と黄色で着色される点が挙げられます。和名はこの色が美しい姿が天人を思わせることに由来します。キク科には多数の種類が知られますが、舌状花が2色で着色されるものは少なく良い識別点です。

他にも葉は互生で披針形から長楕円形(例外あり)、長さは幅の5倍以上と細長い点も他種から区別するには良い特徴です。

しかし、テンニンギクとオオテンニンギクは非常に混同されており、Googleでは日本語で検索しても英語で検索しても間違った検索結果が表示されていることがあります。

テンニンギクとオオテンニンギクの違いは?

テンニンギクとオオテンニンギクを区別するのは厳密にはかなり難しい場合があります(Flora of North America Committee, 2006; 神奈川県植物誌調査会,2018)。

まず、決定的な違いはテンニンギクは一年草で草丈5~35(~60)cmと小型になることがあるのに対して、オオテンニンギクでは多年草で草丈20~80cmと大型になるという点です。

一年草とは冬を越せない草本を指し、多年草とは冬を越せる草本を指しているので、オオテンニンギクの方が丈夫で大きくなることを示しています。

この点は大きな違いですが生長途中の個体の可能性もありますし、テンニンギクもオオテンニンギクと変わらないほど生長することがあります。一年草か多年草かは形態的には判断できないでしょう。

他にはテンニンギクでは茎葉(茎に生える葉)が殆どであるのに対して、オオテンニンギクでは茎葉と根出葉(根際の地面の上に生える葉)の両方が存在するという違いがあります。

そのため、しっかりと生長した個体では、オオテンニンギクなら茎の下部に多く葉が密生している様子が確認でき、テンニンギクではそれがないということになります。

ただこれも小型のテンニンギクでは茎葉と根出葉の区別がつきにくく判断しにくい場合があります。

一番簡単なのは舌状花の花冠の色を確認することです。舌状花の花冠とは頭花の周りにある「花びら」と考えて問題ありません。

テンニンギクでは舌状花の花冠の全体が紫色または大部分が紫色で先端だけ黄色であるのに対して、オオテンニンギクでは舌状花の花冠の全体が黄色または大部分が黄色で基部だけ濃紫色であるという違いがあります。

言葉にすると分かりにくいですが写真を見るとすぐ分かると思います。

ただこの点も厳密には信用できるかは私はまだ分からない部分があります。『Google画像検索』ではテンニンギクのような色合いの花をオオテンニンギクとして紹介しているものが見られるからです。私が日本の植物図鑑とアメリカの植物図鑑を確認した限りは野生個体については上記の区別に例外はなく同定間違いだと思っていますが、園芸品種には例外があり、葉の生え方とともに総合的な判断が必要な場合があるかもしれません。

最も厳密にはテンニンギクでは花床の剛毛は長さ約3mmで、オオテンニンギクでは長さ約6mmである点を確認することで区別できますが野外では難しいでしょう。

更に話をややこしくしているのがガイラルディア・グランディフローラ Gaillardia x grandiflora というテンニンギクとオオテンニンギクの交雑種が存在している点です。

おそらく中間的な特徴を持っており、茎葉があるのに小型でテンニンギクのような色合いの花を確認した場合は雑種だと判断できるかもしれませんが、厳密な区別は難しいかもしれません。

タキイ種苗で販売されているガイラルディア・ファイアーホイールは舌状花の花冠の全てが濃紫色ですがオオテンニンギク Gaillardia aristata ‘Fire Wheels’ とされます。

このほか、下部の葉が羽状に分裂せず、花床の剛毛は不明瞭で、中心の小花(筒状花)は黄色になるホソバテンニンギク Gaillardia aestivalis も知られています。

テンニンギクの葉上面
テンニンギクの葉下面
テンニンギクの茎
テンニンギクの頭花:大部分が濃紫色で先端のみ黄色。全体が濃紫色のものもある。
テンニンギクの果実
オオテンニンギクの全形:最も典型的なものは根出葉のため下部に葉が密生するように見える。|By Matt Lavin – https://www.flickr.com/photos/35478170@N08/52378803468/, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=124523203
オオテンニンギクの根出葉|By Matt Lavin – https://www.flickr.com/photos/35478170@N08/52378989585/, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=124523218
オオテンニンギクの頭花:基部のみが濃紫色で他の大部分が黄色。濃紫色が全くないものもある。|By Cephas – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=107635811

引用文献

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Flora of North America Committee. 2006. Flora of North America, Volume 21 Magnoliophyta: Asteridae, Part 8: Asteraceae, Part 3. Oxford University Press, Oxford. 616pp. ISBN: 9780195305654

RBG Kew. 2025. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/

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