アガベ(竜舌蘭)とユッカ(君が代蘭)の違いは?似た種類の見分け方を解説!寿命が100年は嘘?テキーラの原料になるのは嘘?

植物
Agave americana cv. Marginata

リュウゼツラン・アオノリュウゼツラン・アガベ・キミガヨラン・ユッカはいずれもキジカクシ科(クサスギカズラ科)に含まれ、子供や大人の背丈ほどになることがあるほど大型で、平行脈になっている単子葉を持つことが大きな特徴です。その迫力と乾燥に強いことから日本でも頻繁に観賞用に栽培されます。しかし、呼び名が多く混乱のもととなっています。アガベはリュウゼツランとアオノリュウゼツランなどの複数種を含む言葉で、ユッカはキミガヨランなど複数種を含む言葉です。アガベとユッカは花の形で区別されます。リュウゼツランとアオノリュウゼツランの違いは色だけです。リュウゼツランが「世紀の植物」と呼ばれたり、テキーラの原料になるとされる話がありますが、いずれも少し事実と異なります。本記事ではリュウゼツランの分類・生態・文化について解説していきます。

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リュウゼツラン・アオノリュウゼツラン・アガベ・キミガヨラン・ユッカとは?

アオノリュウゼツラン(青の竜舌蘭) Agave americana subsp. americana はメキシコおよびアメリカ合衆国テキサス州原産で、日本を含む世界中で観賞用に栽培され、一部の国で帰化し、暑い気候や干魃がおこる場所に生える常緑性多年草です。繊維や発酵酒(プルケ・オクトリ)や蒸留酒(メスカル)の原料にもなります。

リュウゼツラン(竜舌蘭) Agave americana ‘Marginata’ はアオノリュウゼツランの園芸品種です。日本を含む世界中で観賞用に栽培されます。

アガベはAgave属(リュウゼツラン属)を含まれる植物の総称で、上記2種の他フキアゲ Agave stricta や、ササノユキ Agave victorae-reginae などを含みます。 

キミガヨラン(君が代蘭) Yucca gloriosa var. recurvifolia はアツバキミガヨラン Yucca gloriosa var. gloriosa の変種で、アメリカ合衆国南東部に生える常緑低木です。日本を含む世界中で観賞用に栽培されます。

ユッカはYucca属(イトラン属)に含まれる植物の総称で、上記2種の他イトラン Yucca flaccida や、センジュラン Yucca aloifolia などを含みます。別名は青年の木。

いずれもキジカクシ科(クサスギカズラ科)に含まれ、子供や大人の背丈ほどになることがあるほど大型で、平行脈になっている単子葉を持つことが大きな特徴です。その迫力と乾燥に強いことから日本でも頻繁に観賞用に栽培されます。

しかし、これらの用語はインターネットでは混同されることがあるようです。キミガヨランを間違ってリュウゼツランとして紹介されているサイトも見受けられます。

なお、リュウゼツランもキミガヨランも「ラン」と付いていますが、ラン科ではありません。ラン科の花は花弁と萼が巧みに組み合わさった派手な「ラン形花冠(orchidaceous corolla)」を作りますが、これらの花はそのような形になっていません。

アガベとユッカの違いは?

上述のように、アガベはリュウゼツランなど複数の種類、ユッカはキミガヨランなど複数の種類を指す言葉です。

では、アガベとユッカの違いはどこにあるのでしょうか?

ここで挙げた種類ではリュウゼツラン・アオノリュウゼツランとキミガヨランの違いということになります。

分類上の決定的な違いとしては、アガベでは数十年に1回、1個体においてただ1度だけ上向きの花が咲き、花には緑色の花被片(花びらと萼の区別がつかないもの)が短くあるだけなのに対して、ユッカでは毎年、5~10月に不定期に下向きの花が咲き、花には白色の大きな花被片があるということが挙げられます(Flora of North America Editorial Committee, 2002)。

この違いは元々の原産地での送粉生態、つまりどのような動物によって花粉を運んでもらい受粉するのかという違いが大きな原因となっています。

アガベは一般的に夜行性のコウモリ媒で、コウモリが夜に蜜や花粉を与えて、花粉を別個体に運んでもらいます(Trejo-Salazar et al., 2016; Eguiarte et al., 2021)。そのため夜間に視覚を利用しないコウモリに適応して目立った花被片を持っていないのです。ただし、稀にアオノリュウゼツランのように昼行性のハチドリもやってくる種類も居ます(Knudsen & Tollsten, 1995)。

一方、ユッカは昆虫媒で、しかも種類ごとに特別なユッカガと呼ばれる特殊な蛾のみがやってきます(川北,2012;石井,2020)。メスの蛾はユッカの雌しべに産卵し、子どもの幼虫の餌とする代わりに、メスの蛾はユッカから花粉を触覚で掻き出し運んでいきます。そのため、ユッカの花被片は蛾に目立ち、潜り込んでもらうため、白く下向きになっているのです。この関係はユッカの種類ごとにほぼ1対1対応した蛾がやってくることが知られており、「絶対送粉共生」と呼ばれています。

このような大きな生態の違いを考えると似ているものの、全く異なる種類であることがわかるでしょう。

また、アガベでは茎は非常に短いかまたは不明瞭でほとんど葉からできているような印象を受けますが、ユッカでは葉に覆われた幹を作ります。

リュウゼツラン・アオノリュウゼツランとキミガヨランに限れば葉は全く異なり、アガベでは幅が広く肉厚で刺があるのに対して、ユッカでは幅が狭く薄く刺がないという違いがあります。

キミガヨランの葉
キミガヨランの花:ユッカガ専用の下向きの白い花被片

リュウゼツランとアオノリュウゼツランの違いは?

リュウゼツランとアオノリュウゼツランの違いはどうでしょうか?

実は学名を見れば分かりますが、「リュウゼツラン」は「アオノリュウゼツラン」の園芸品種です。したがって、基本的な形態や生態は全く同じと考えて構いません。

学名は「アオノリュウゼツラン」→「リュウゼツラン」と派生していますが、和名は「リュウゼツラン」→「アオノリュウゼツラン」と派生しており、命名の順番が逆になっていることには注意しましょう。つまりアオノリュウゼツランが本来はオリジナルで野生型であるということになります。日本に伝わる過程で誤解が生じたのでしょう。

違いとしては、リュウゼツランでは葉縁が白い斑入りになっているのに対して、アオノリュウゼツランではそのようなものはなく一様に青緑色になっています。

その他は全く同じです。

リュウゼツランの全形と葉:葉縁が白い斑入り
アオノリュウゼツランの全形と葉:模様はない
アオノリュウゼツランの花:コウモリ専用の上向きの緑色の花被片|By Karuna786 – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=22397717

リュウゼツランが寿命が100年は嘘?なぜ長期間花が咲かない?

リュウゼツランは寿命の長さから「世紀の植物」と呼ばれ、日本では50~100年以上生きるとされることもあります。これは本当なのでしょうか?

実際の科学的な論文は発見できませんでしたが、おそらくこれは誇張のし過ぎで『英語版Wikipedia』など英語圏の情報を参照すると通常は10~30年生きるとされています。

もしかしたら日本は原産国とは環境が異なり生育が遅くなり本当に50~100年生きる可能性もありますが、おそらく科学的には検証されていません。

また「リュウゼツラン」というのが「アガベ(リュウゼツラン属)」という意味で、他の種類のアガベも含めるのだとすればこの限りではないでしょう。

とはいえ、かなり長生きであることは本当です。しかも、寿命の最期にはただ1度だけ大量の花を咲かせ、花粉と蜜を分泌します。開花が終わると一生を終え、枯れてしまいます。これは「一捻性いちねんせい植物」と呼ばれる植物の特徴です。なぜこのようなことをするのでしょうか?これでは受粉する機会が少なく子孫を残すのが難しいように思えます。

これは上述のようにコウモリ媒への適応が関係していると考えられています(Eguiarte et al., 2021)。

リュウゼツランはコウモリが満足する豊富な花粉や蜜といった餌を用意するために、茎の中にアグアミエル(アガベシロップ)を蓄えることが知られています。これは非常に甘く、ヒトからはそのままシロップとして食用にしたり、後述のようにプルケやメスカル(テキーラはその一種)のようなお酒として利用されます。

寿命が長く、めったに開花しないのはこれらの生産にとても長い時間がかかるからです。

しかしそれならなぜコウモリ媒がそもそも進化したのでしょうか?

その理由としては、リュウゼツランの原産地である暑い気候や干魃がおこる場所では、送粉・受粉を行ってくれる昆虫や鳥類が乏しかったことが大きく影響しているでしょう。アオノリュウゼツランでは昼行性のハチドリも受粉に貢献しています(Knudsen & Tollsten, 1995)。

なお、枯れて寿命を終えるとは言いましたが、果実を作りますし、根元から不定芽を出し次世代として生長も続けます。したがって、絶滅してしまうことはないのです。

リュウゼツランがテキーラの原料になるのは嘘?

よくある誤解として「リュウゼツランはテキーラの原料になる」というものがあります。

私が学生時代愛読していた漫画『もやしもん』の5巻でもメキシコからの帰国子女である川浜拓馬が学内のリュウゼツランを伐採して(!)、アグアミエル(アガベシロップ)をプルケ(アガベの発酵酒)の原料にしてしまうという描写があります。その中で「リュウゼツランはテキーラの原料になる」という旨の発言をしています。

しかし、これは少し誤解を孕む発言でしょう。この「リュウゼツラン」が「アガベ(リュウゼツラン属)」という意味なら問題ないですが、「アオノリュウゼツラン Agave americana」という意味なら間違いです。

なぜならテキーラ規制委員会によって「テキーラはテキーラ町で製造され、テキーラーリュウゼツラン(ブルーアガベ) Agave tequilana が主成分として用いられるものを指す」とブランド保護のために明確に定義されているからです(倉光,2021)。これはワインと同じです。

テキーラーリュウゼツランはアオノリュウゼツラン(とリュウゼツラン)と見た目はかなり似ていますが、葉にある刺が赤くなる全くの別種で、分布もメキシコのみでアオノリュウゼツランのようにアメリカ合衆国には分布しませんし、日本での植栽も野外ではおそらく難しく少ないです。

テキーラーリュウゼツラン(ブルーアガベ)の全形と葉|By Leonora Enking from West Sussex, England – Agave tequilana (Tequila Agave), CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=47291409

ただ、テキーラはメスカルというアガベを主原料とするメキシコ特産蒸留酒の一種で、メスカル自体はアオノリュウゼツランで作られることもあります。その味がテキーラとどう違うのかは実際に飲んだ人に聞いてみたいところですね。

引用文献

Eguiarte, L. E., Jiménez Barrón, O. A., Aguirre-Planter, E., Scheinvar, E., Gamez, N., Gasca-Pineda, J., … & Souza, V. 2021. Evolutionary ecology of Agave: distribution patterns, phylogeny, and coevolution (an homage to Howard S. Gentry). American Journal of Botany 108(2): 216-235. https://doi.org/10.1002/ajb2.1609

Flora of North America Editorial Committee. 2002. Flora of North America, Vol. 26: Liliidae. Oxford University Press, ‎Oxford. 752pp. ISBN: 9780195152081

石井博. 2020. 花と昆虫のしたたかで素敵な関係 受粉にまつわる生態学. ベレ出版, 東京. 290pp. ISBN: 9784860646103

Knudsen, J. T., & Tollsten, L. 1995. Floral scent in bat-pollinated plants: a case of convergent evolution. Botanical Journal of the Linnean Society 119(1): 45-57. https://doi.org/10.1111/j.1095-8339.1995.tb00728.x

川北篤. 2012. 絶対送粉共生はいかに海を渡ったか ―コミカンソウ科-ハナホソガ属共生系の島嶼生物地理. 日本生態学会誌 62(3): 321-327. https://doi.org/10.18960/seitai.62.3_321

倉光潤. 2021. テキーラとメスカルの輸出戦略から考える本格焼酎. 日本醸造協会誌 116(2): 77-88. ISSN: 0914-7314, https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030937155

Trejo-Salazar, R. E., Eguiarte, L. E., Suro-Piñera, D., & Medellin, R. A. 2016. Save our bats, save our tequila: industry and science join forces to help bats and agaves. Natural Areas Journal 36(4): 523-530. https://doi.org/10.3375/043.036.0417

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