ハナニラ・ニラ・ハタケニラはいずれもヒガンバナ科ネギ亜科に含まれ「ニラ(韮)」という名前が付いており、畑~都市部でも確認できる一般的な多年草です。紛らわしい命名であるためこれら3種類を見たことがない人にとって見分け方がわからないと感じることがあるかもしれません。しかし、分類的な隔たりは大きく、花の形を確認すれば容易に区別することができます。ハナニラとハタケニラの食用に関してはインターネットでは出典が不明な曖昧な記述が多く、ハタケニラは食用できますが、ハナニラについては不明なので食べない方が良いでしょう。本記事ではニラとつく植物の分類・形態・利用方法について解説していきます。
ハナニラ・ニラ・ハタケニラとは?
ハナニラ(花韮) Ipheion uniflorum は別名セイヨウアマナ(西洋甘菜)、イフェイオン、アイフェイオン。南アメリカ(アルゼンチン・ウルグアイ)原産の多年草です。世界中で観賞用に栽培され、日本でも明治期に観賞用として導入され、各地で帰化しています。
ニラ(韮) Allium tuberosum は日本の本州・四国・九州;パキスタン・インド・中国に分布するといわれ、土手・畦・空地などに広く生える多年草です。古くから葉を食用とする野菜として畑に栽培されてきたため、日本では真の自生か、栽培したものが広がったのかよく分かっていません。和食で汁の実や薬味、おひたし、炒め物などにするほか、中華料理や朝鮮料理によく用いられます。レバニラ炒め、ニラ玉、ニラ饅頭、餃子が代表的です。
ハタケニラ(畑韮) Nothoscordum gracile は北アメリカ南部~熱帯アメリカ原産の多年草です。日本では明治年間の中頃に渡来したとされ、関東地方以西に帰化しています。
いずれもヒガンバナ科ネギ亜科に含まれ「ニラ(韮)」という名前が付いており、畑~都市部でも確認できる一般的な多年草です。
形態的には子房上位(果実の元となる子房が花弁より上部にある状態)であるという共通点があります。そのため花を観察して見ると、花弁の上に緑色の塊を確認することができるでしょう。
紛らわしい命名であるためこれら3種類を見たことがない人にとって見分け方がわからないと感じることがあるかもしれません。
特にニラ Allium tuberosum の品種として花茎とその先につく蕾の部分を食用とするものを「花ニラ」と呼ぶことがあり、これも混同の原因となるでしょう。
ハナニラ・ニラ・ハタケニラの違いは?
しかし、これら3種類は名前の類似性に反してかなり異なる仲間であることがよく観察すると分かります(神奈川県植物誌調査会,2018)。
まず、分類を確認すると、ハナニラはハナニラ属に、ニラはネギ属に、ハタケニラはハタケニラ属に含まれます。そのため大きな違いがあることが予想されるでしょう。
具体的な違いとしては、ニラとハタケニラでは花被片(ここでは花びらの部分、花弁と萼の区別がつかないのでこう呼ばれる)が離生または基部のみ短く合着するのに対して、ハナニラでは花被片が完全に合着し、合弁花のような花冠を形成しています。
花被片に関しては他にも、ニラとハタケニラでは多少色がつくことがあるものの白色がベースで、小型であるのに対して、ハナニラでは紫色~ピンク色で、大型であるという違いがあります。
花期に関してはハナニラが3~4月、ニラが8~10月、ハタケニラが5~6月です。
ニラとハタケニラについてはかなりそっくりだと感じることも多いかもしれませんが、おすすめの区別方法は雄しべの花糸(黄色い葯を支える柄の部分)を確認することです。
この花糸が、ニラでは細く長く外側に向かって生えるのに対して、ハタケニラでは平べったく幅広でほぼ垂直に生えて、複数の雄しべによって雌しべを筒のように包んでいるように見えるという違いがあります。
更に、ニラでは花被片の基部に特別な色はありませんが、ハタケニラでは花被片の基部は緑色になっています。
葉だけでの区別は困難ですが、ハナニラとニラはニラ炒めなどで感じるような特有の匂いがあるのに対して、ハタケニラではそのような匂いがないというのは参考になるでしょう。なお、絶対に有毒なスイセンとは間違わないでください。
ハナニラとハタケニラは食べられる?
ニラは勿論食用になりますが、ハナニラとハタケニラは食用になるのでしょうか?
ハタケニラについては日本のウェブサイトではなぜか食用にならないという記述も見つかりますが、海外ではニンニクの代用品としてやスパイスとして使用されています(PFAF, 2024)。ただし、ニラのような匂いはないのでニラと同じようには食べられないかもしれません。
一方、ハナニラは『日本医薬情報センター ガーデン』にて「球根は有毒、トリテルペン配糖体が含有されている」という記述があります(日本医薬情報センター,2024)。
しかし、この記述を元に著者も英語も含めて文献を調査しましたが、このことについて言及しているものは発見できませんでした。葉の毒性に関しても不明です。
日本のウェブサイトではやはり「毒性がある」という記述が目立ちますが、出典は不明です。
確固たる証拠はありませんが、安全をとって食べないほうが良いとは思います。勿論、ニラの品種である「花ニラ」は普通に食べられます。
他に似た種類はいる?ニラモドキとの違いは?
3種のみ絞って解説してきましたが、それぞれの属には他にも様々な種類が知られています。それらとの区別方法は別記事で紹介します。
ネギ属には他にも多数の種類が含まれているので、これらとの区別も必要です。
ハタケニラ属にはニラモドキ Nothoscordum bivalve と呼ばれるよく似た別種も含まれており、これとの区別も重要です。この種類はかなり混同されています。
ハナニラによく似ているものの花が黄色いキバナハナニラ Nothoscordum felipponei もハタケニラ属に含まれます。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
日本医薬情報センター. 2024. 日本医薬情報センター ガーデン. https://www.japic.or.jp/garden/index.php?mod=detail&id=299
PFAF. 2024. Plants For A Future: Nothoscordum gracile. https://pfaf.org/User/Plant.aspx?LatinName=Nothoscordum+gracile