ジャノヒゲ・ナガバジャノヒゲ・オオバジャノヒゲ・ノシランはいずれもキジカクシ科(クサスギカズラ科)ジャノヒゲ属に含まれ、林内の地面に這うように生えているのを見かける常緑多年草です。果実と勘違いされやすい濃青色の種子をつける点が最も目立つ特徴でしょう。しかし、4種はかなり似ており区別がつかないことがあるかもしれません。一番注目するべきは葉の幅で、これでオオバジャノヒゲやノシランを大別することができます。この他、花柄の長さや葉の長さ、匍匐茎の有無が重要です。ただ、ジャノヒゲとナガバジャノヒゲの区別に関しては難しい場合があるかしれません。本記事ではジャノヒゲ属の分類・形態について解説していきます。
ジャノヒゲ・ナガバジャノヒゲ・オオバジャノヒゲ・ノシランとは?
ジャノヒゲ(蛇の髭) Ophiopogon japonicus var. japonicus は別名リュウノヒゲ。日本の北海道・本州・四国・九州;朝鮮・中国・台湾に分布し、照葉樹林の下や草地に生える常緑多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。
ナガバジャノヒゲ(長葉蛇の髭) Ophiopogon japonicus var. umbrosus は日本の本州・四国・九州;朝鮮(南部)・中国に分布し、林床や林縁に生える常緑多年草です。
オオバジャノヒゲ(大葉蛇の髭) Ophiopogon planiscapus は日本の本州・四国・九州に分布し、林床に生える常緑多年草です。
ノシラン(熨斗蘭) Ophiopogon jaburan は日本の本州(東海以西)・四国・九州;朝鮮(済州島)に分布し、海に近い林の下に生える常緑多年草です。
いずれもキジカクシ科(クサスギカズラ科)ジャノヒゲ属に含まれ、林内の地面に這うように生えているのを見かける常緑多年草です。グラウンドの緑化用や観賞用としても人気があり、町中でも見かけることが多いです。
形態的にもっとも目立つのは濃青色の種子をつけるということでしょう。林内を歩いているとかなり目立ちます。近い仲間であるヤブラン属は種子が紫黒色になるため、この点で区別できます。この青い種子は果実であると勘違いされて、園芸サイトなどでは間違って紹介されることが多いですが、ジャノヒゲ属やヤブラン属の仲間では果皮が熟する前に外れてしまい、種子だけになってしまいます。この青い種子は暗い林床で目立ち、ヒヨドリなどの鳥類によって食べられ、種子散布されることが知られています(上田・野間,1999)。
しかし、ヤブラン属に含まれる仲間はかなり類似しており、区別に迷うことは多いでしょう。
ジャノヒゲ・ナガバジャノヒゲ・オオバジャノヒゲ・ノシランの違いは?
ジャノヒゲ・ナガバジャノヒゲ・オオバジャノヒゲ・ノシランの4種の違いを考えていきます(神奈川県植物誌調査会,2018)。
まず、ノシランでは葉が幅10~15mm、花柄は長さ1~2cmであるのに対して、ジャノヒゲ・ナガバジャノヒゲ・オオバジャノヒゲでは葉が幅2~8mm、花柄が長さ4~10mmであるという違いがあります。
これら2点からノシランは他3種からはかなり異なった種類であるという印象を受けるでしょう。
残り3種に関しては、オオバジャノヒゲでは葉が幅4~8mmであるのに対して、ジャノヒゲとナガバジャノヒゲでは葉が幅2~4mmであるという違いがあります。
ジャノヒゲとナガバジャノヒゲの違いは?
一番難しいのはジャノヒゲとナガバジャノヒゲの違いです。
基本的にはジャノヒゲでは葉が長さ10~20cmで、根茎が普通は匍匐茎を伸ばすのに対して、ナガバジャノヒゲでは葉が長さ20~40cmで、根茎が叢生し、匍匐茎を出すという違いがあるとされています。
まずは葉の長さを確認することをおすすめします。ただ、根茎は見えにくくきちんと意識しないと記録していないことも多く、小型の個体も存在するために自信を持って判断できない場合も多いかもしれません。
他に重要な点としては外観で、ジャノヒゲでは葉の根本が地面に密着し、匍匐茎から芽を出しても増えるため株が密接して生えているのに対して、ナガバジャノヒゲでは茎の根本が立ち上がり、基本的には種子で増えるため株が孤立して生えることもあるという違いがあります。
この他、ジャノヒゲでは葉が幅2~4mmと太めであるのに対して、ナガバジャノヒゲでは葉が幅1.5~2.5mmで細めであるという違いもありますが、参考程度にしましょう。
生息地に関しては、ジャノヒゲは陽地によく群生するのに対して、ナガバジャノヒゲは陰地によく群生するという違いがあります。
以上で、確実に判断できると言いたいところですが、困ったことにジャノヒゲにはカブダチジャノヒゲ var. caespitosus という変種が知られており、このカブダチジャノヒゲはナガバジャノヒゲのように根茎が叢生して匍匐茎を出さないのです。
カブダチジャノヒゲとナガバジャノヒゲの違いとしては、カブダチジャノヒゲではやはり葉が長さ10~20cmであることに加えて、小花柄が長さ3~4mmであるのに対して、ナガバジャノヒゲでは葉の長さは同上で、小花柄が長さ5~10mmであるという違いがあります。
カブダチジャノヒゲは野生個体は今のところ千葉県でのみ知られており、普通は野外で見られないものの、まだ未発見の地域や園芸個体群で見られる可能性がある点は留意する必要はありそうです。
なお、イギリスの研究機関では2変種を特別に区別していません(RBG Kew, 2024)。
他に似た種類はいる?タマリュウ・ヤブランとの違いは?
タマリュウ(玉竜) Ophiopogon japonicus var. japonicus f. nanus はジャノヒゲの品種で、葉の長さが5~15cmと短めのものです。
ジャノヒゲ属の花には変異があり、基本は淡紫色ですが、白色であることも多く、それぞれシロバナジャノヒゲ f. leucanthus、シロバナナガバジャノヒゲ f. leucanthus、シロバナオオバジャノヒゲ f. leucanthus と呼ばれています。
ヤブランを含むヤブラン属は分類的にもかなり近く、葉がかなり似ており、花も色によってはかなり類似していると感じることが多いでしょう。
しかし、ジャノヒゲを含むジャノヒゲ属では子房が半下位、花糸はごく短く、葯の先は尖り、種子は濃青色に熟すのに対して、ヤブランを含むヤブラン属では子房が上位、明らかな花糸があり、葯の先は尖らず、種子は紫黒色に熟すという違いがあります。
ヤブラン属の違いについては別記事を御覧ください。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
RBG Kew. 2024. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/
上田恵介・野間直彦. 1999. 林の中の”草の実”を運ぶもの. pp.76-85. In: 上田恵介編. 種子散布 助けあいの進化論 1 鳥が運ぶ種子. 築地書館, 東京. ISBN: 9784806711926