タマスダレとサフランモドキは観賞用に園芸で盛んに栽培されますが、和名の混乱があるかも知れません。タマスダレでは花被裂片内側が白色であるのに対して、サフランモドキでは鮮桃色になっていることが最も大きな違いです。サフランモドキは「モドキ」と呼ばれるようにサフランと似ていると感じるかも知れませんが、サフランの花の色はサフランモドキとは全く異なっています。この名前は植物の資料が少ない江戸時代に輸入されたときにサフランと勘違いされたことに由来しています。そんなタマスダレ属の仲間の花は基本的には自家受粉を行いますが、サフランモドキではメキシコの地では甲虫が多数訪れることが分かっています。果実は蒴果でおそらく重力散布です。本記事ではタマスダレとサフランモドキの分類・名前の由来・送粉生態について解説します。
中南米原産で観賞用として人気の高いタマスダレ属2種
タマスダレ(玉簾) Zephyranthes candida はアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイのラプラタ川流域及びチリ、ペルー原産で日本では1871~72年に観賞用として渡来し、一部が野生化もしている耐寒性常緑多年草です(塚本,1994)。
サフランモドキ(サフラン擬き) Zephyranthes carinata はメキシコ、グアテマラが原産地であるものの、アメリカ合衆国南部からコスタリカ、アンチル諸島、南アメリカにも広がっており(Fernández-Alonso & Groenendijk, 2018)、日本では広く栽培され、一部が野生化もしている多年草です。
どちらもヒガンバナ科タマスダレ属で、共通して鱗茎にリコリンなどの毒性を持つことも特徴です(塚本,1994;Mutsuga et al., 2001)。
タマスダレとサフランモドキの違いは?
どちらも似た形をしていますが、2種の明らかな違いはタマスダレでは花被裂片内側が白色であるのに対して、サフランモドキでは鮮桃色になっていることです。また微妙にサフランモドキの方が雄しべが長くなっています。
タマスダレは花期が7~9月で、20~30cmの花茎に径4~5cmの花をつけ、上を向いて咲きます。花被裂片は6裂し、内側は白色で外面基部は淡紅色を帯びています。
サフランモドキは花期は6~10月で、径6cm前後で比較的大きい花をつけ、やはり花は上を向いています。花被裂片は6裂し、タマスダレとは違い鮮やかなピンク色をしています(塚本,1994)。
同じヒガンバナ科のタマスダレ属ですが、花が咲いていればまず見間違うことはないでしょう。
しかし、いくつか近縁種も居ます。以下の記事ではタマスダレ属の近い仲間について更に掲載しています。
サフランとサフランモドキの違いは?
サフランモドキはサフラン・モドキ、つまりサフランのような、という和名がついています。これはなぜなのでしょうか?
これは日本では長らくサフランと間違えられていたことに由来します。サフランモドキが日本で最初に見られたのは江戸時代の1845年にパイナップルの栽培土に混入していた球根を薬種目利(やくしゅめきき、移入植物の鑑定を行う職種)である野田青葭が育てたのが初めとされています。このときサフランモドキがサフランと同種と認識されてしまい、別種であることが明らかになったのは明治になってからです(磯野,2007)。
実際のサフランはそもそもアヤメ科で分類が全く異なる上、花の色が淡紫色で、雌しべが赤くなっています。ただ全体的な形や葯が黄色である点などは少しだけ似ており、鎖国していた当時、わずかな情報だけではきちんと区別することができなかったのかもしれません(サフランについては以下記事参照)。
一方、タマスダレは白い小さな花を「玉」に、葉が集まっている様子を「簾」に例えたことによるとされます。
ピンク色の花には甲虫が9割近く訪れる?
タマスダレとサフランモドキの属するタマスダレ属 Zephyranthes では80%が自家受粉によって種子を作ると考えられています。
しかし、虫を惹き寄せて他の個体の花粉を得ることも遺伝子の偏りを無くすためには重要になってくるのです。そのためサフランモドキではどのような昆虫がやってくるか調査が行われています。
原産地のメキシコの研究によるとやってくる虫は全体のうち、86%がジョウカイモドキという甲虫がやってきて、12%はハナバチが訪れます(Argueta-Guzmán et al., 2013)。一見見た目が派手なためチョウなどが訪れそうにも見えるので、意外な結果かもしれません。まだ十分に研究されていないのですが、花粉を目当てにやってきているのかもしれませんね。
果実は蒴果で重力散布?
タマスダレ属は共通で蒴果です。
タマスダレの蒴果は類球形、直径約1.2cmです。熟すと3裂して黒色の種子を出します。
サフランモドキの蒴果は類球形です。熟すと3裂します。種子は黒色で、各室に3~5個の黒色の種子を出します。
種子散布の方法は詳しくは分かっていないと思われますが、ほぼ同じ形をした種子を持つ近縁種では短距離を重力散布、風散布または動物被食散布されると考えられています(Fernández-Alonso & Groenendijk, 2004)。
引用文献
Argueta-Guzmán, M. P, Barrales-Alcalá, D. A, Galicia-Pérez, A., Jordan, G., & Mandujano M. C. 2013. Sistema reproductivo y visitantes florales de Zephyranthes carinata Herb (Asparagales: Amaryllidaceae). Cactáceas y suculentas mexicanas 58(4): 100-117. ISSN: 0526-717X, https://biblat.unam.mx/hevila/Cactaceasysuculentasmexicanas/2013/vol58/no4/1.pdf
Fernández-Alonso, J. L., & Groenendijk, J. P. 2004. A new species of Zephyranthes Herb. s.l. (Amaryllidaceae Hippeastreae), with notes on the genus in Colombia. Revista de la Academia Colombiana de Ciencias Exactas, Físicas y Naturales 28(107): 177-186. ISSN: 0370-3908, http://hdl.handle.net/10261/33396
磯野直秀. 2007. 明治前園芸植物渡来年表. 慶應義塾大学日吉紀要 自然科学 42: 27-58. ISSN: 0911-7237, https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN10079809-20070930-0027
Mutsuga, M., Kojima, K., Nose, M., Inoue, M., & Ogihara, Y. 2001. Cytotoxic activities of alkaloids from Zephyranthes carinata. Natural medicines 55(4): 201-204. ISSN: 1340-3443, https://dl.ndl.go.jp/pid/10759797/1/1
塚本洋太郎. 1994. 園芸植物大事典 コンパクト版. 小学館, 東京. 3710pp. ISBN: 9784093051118
出典元
本記事は以下書籍に収録されていたものを大幅に加筆したものです。