ウェルウィッチア科 Welwitschiaceae はアフリカ南西部で見られる現存種一種のみを含みます。白亜紀前期(中生代)の南米には、ウェルウィッチア科の植物が存在していたことが化石から判明しており、ブラジル北東部のアラリペ盆地にあるアプティアヌス紀後期(白亜紀下部)の地層、モロッコの白亜紀前期(セノマン・チューロン紀)のアクラブー層からそれぞれ1種ずつが知られています。絶滅している†Welwitschiophyllum brasiliense は、長さ8.9〜70cm、幅2.8〜5cmの三角〜線形の厚い葉をもつことで知られ、†Welwitschiostrobus murili は、現存している Welwitschia に似ていますが長くて薄いいくつかの球果をもつことが知られています。初期の生息地は現在の砂漠ではなく中湿性生息地(Mesic habitat:中等度またはバランスの取れた水分の供給がある生息地)であり、現在の断片的で孤立した集団分布は、古第三紀、新第三紀、第四紀の乾燥化によって、植物が必要な水を十分に供給できる地域に限定されたことに起因すると指摘されます(Jacobson & Lester, 2003)。
本記事ではウェルウィッチア科の植物を図鑑風に一挙紹介します。
写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。
No.0003.b キソウテンガイ Welwitschia mirabilis
別名サバクオモト。多年草。茎は木質で分岐せず、高さは最大個体でも1.5mを超えませんが、植物体の直径は8mにも達します。茎そのものは塊状でその径は1m程まで。茎の先端は盤状で大きく2裂し、それぞれに帯状の葉を1個ずつ持ちます。この2枚の葉は、茎の末端の溝にある分裂組織から成長します。葉は2~4mに達すると、木部の捻れや風などの外的要因によって擦り切れて裂け始め、一見何枚もあるように見えます。葉先は次第に枯れていきます。機能する葉を1対しか持たないことから、一時は、本種の形態は幼形進化によるものではないかと考えられていましたが、その解剖学的特徴は苗木のものとは全く異なり、実際には成長の初期に成長点を失うことによるものだと分かっています。茎の中央部にはくぼみがあり、そこから細かい枝を出し、花序(胞子嚢穂)をつけます。雌雄異株で、雌花序は雄花序より大きく、共に灰緑色や深紅色をしています。雌花は球果状(他の裸子植物と同様に松かさ状)で、長さ2~8cm程度。雄花は1.5~4cm、退化した胚珠1つと小胞子嚢柄6本を有します。種子は径5~6mmで黒く、径2cmの薄い皮膜があって有翼。受精はハエや真正カメムシなどの昆虫によって行われます。キソウテンガイに最もよくつく真正カメムシは、ヒメカメムシ科のウェルウィッチアナガカメムシ Probergrothius angolensis ですが、受粉に関与しているという仮説は今のところ証明されていません(Wetschnig, 1999)。まれにスズメバチやハチも受粉媒介者として役割を果たします。少なくとも一部の受粉媒介者は、雄花と雌花の両方に作られる「蜜」に誘引されます。個々の植物の樹齢を評価するのは難しいですが、放射性炭素年代測定法での調査によると多くの植物は1,000年以上経っている可能性があります。 知られている最大のものは直径2.77m、円周8.7mです。アフリカのナミブ砂漠の中にあるカオコベルド砂漠の固有種です。アンゴラ南部のベンティアバ川から南下し、ナミビアのクイセブ川、海岸から100km内陸部まで分布します。この地域は非常に乾燥していて、海岸ではほとんど雨が降らないという記録があり、2~4月の雨季には年間100mm以下の雨しか降りません。このため、霧による降水に加えて、地下水に依存していると考えられています。
引用文献
Jacobson, K. M., & Lester, E. 2003. A first assessment of genetic variation in Welwitschia mirabilis Hook. Journal of Heredity 94(3): 212-217. https://doi.org/10.1093/jhered/esg051
Wetschnig, W., & Depisch, B. 1999. Pollination biology of Welwitschia mirabilis HOOK. f.(Welwitschiaceae, Gnetopsida). Phyton 39(1): 167-183.