ヤブマメとツルマメはいずれもマメ科のつる性一年草で、日本では土堤、草原、林縁などのよく似た環境に生えており、三出複葉で形も一見似ており、混同されるかもしれません。しかし、属レベルでの違いがあり、その違いは葉・花・果実全てによく現れているのでよく観察すれば区別できるでしょう。ツルマメはダイズの原種であると言われており、基本的な構造はかなり似ていますが、ツルマメはつる性で、ダイズは直立性という大きな違いの他、ヒトが栽培するに当たって非常に都合にいい進化が起こっています。本記事ではヤブマメ・ツルマメ・ダイズの分類について解説していきます。
ヤブマメ・ツルマメとは?
ヤブマメ(藪豆) Amphicarpaea edgeworthii は日本の本州(関東地方以西)、四国、九州;朝鮮、中国に分布し、土堤、草原、林縁などに生えるつる性一年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。花期は9〜10月。
ツルマメ(蔓豆) Glycine max subsp. soja は日本の北海道、本州、四国、九州;朝鮮、中国;シベリア東部に分布し、草原、土堤、林縁などに生えるつる性一年草です。花期は8〜9月。
いずれもマメ科のつる性一年草で、日本では土堤、草原、林縁などのよく似た環境に生えています。形態としてもいずれも三出複葉で、果実は豆果なので、「豆」と「莢(さや)」から構成されています。花もどちらも蝶形花で紫色です。
そのため、混同されることがあるかもしれません。
ヤブマメとツルマメの違いは?
しかし、ヤブマメとツルマメには様々な違いがあります(林ら,2013;神奈川県植物誌調査会,2018)。
まず、ヤブマメはヤブマメ属であるのに対して、ツルマメはダイズ属です。そのため、この2種間に大きな違いがあることが予想されるでしょう。
具体的にはヤブマメ属は2体雄しべであるのに対して、ダイズ属は単体雄しべであるという違いがあります。
「単体雄しべ」とは全ての雄しべの花糸が合着しているものを指し、「単体雄しべ」は花糸が合着して2組になっているものを指します。
ただ、この雄しべの構造は外からは見えず、あまり実用的な違いではないでしょう。
ヤブマメとツルマメに限ればもっとわかりやすい特徴がいくつかあります。
葉に関しては、ヤブマメでは小葉が卵形であるのに対して、ツルマメでは小葉が狭卵形〜披針形という違いがあります。
花に関しては、ヤブマメでは旗弁(蝶形花の上部の大きな花弁)が濃い紫色で、前に張り出し先がやや尖るのに対して、ツルマメでは旗弁が淡紅紫色で、前に張り出すことはなく先は丸いです。
果実に関しては、ヤブマメでは剛毛が縫合線(莢と莢の間)にのみあるのに対して、ツルマメでは剛毛が莢全体にあります。これはダイズ(エダマメ)の莢を連想すれば覚えやすいでしょう。
外からは確認できませんが、ヤブマメでは細い地下茎につくに閉鎖花をつけ、結実し、豆果も地中にでているというのも違いです。
なお、ヤブマメには葉がやや小型で質が薄く、頂小葉が楕円形の個体をウスバヤブマメ var. trisperma も知られますが、最近では連続性があるため区別されません。
ツルマメには花が白いシロバナツルマメ f. albiflora も知られます。
ツルマメとダイズの違いは?
ツルマメはダイズ(大豆) Glycine max subsp. max の原種であると考えられています。ダイズはツルマメがヒトに栽培されてきた結果進化したものであるとも言えます。分類上も勿論どちらもダイズ属に含まれています。そのため、ツルマメとダイズの違いについて気になる人がいるかもしれません。
ツルマメとダイズのもっとも大きな違いはつる性か否かということで、ツルマメはつる性ですが、ダイズは直立しています(山口・島本,2001;Wu et al., 2010)。ただし、つる性のダイズの品種も稀にあります。
つまりツルマメは他の植物や構造物に絡みつかないと正常に生長できませんが、ダイズはそのようなことはありません。これはヒトによって都合よく栽培されてきた結果であると考えられるでしょう。
同様にヒトの都合が良い変化として、ツルマメよりダイズの方が種子(豆)は柔らかくサイズが大きくなっていることも挙げられ、これも大きな違いと言えます。
更にツルマメの莢は熟すと種子を飛ばすために弾けますが(脱粒性)、ダイズはそうなりません。これもヒトが種子を収穫しやすくなるためです。
葉に関しては、ツルマメでは小葉が卵形であるのに対して、ダイズでは小葉が広卵形であるという違いもあります。
この他にもたくさんの違いがあります。詳しく知りたい人は山口・島本(2001)や吉村ら(2016)をご参照下さい。
なお、エダマメ(枝豆)はダイズのうち種子を未成熟で緑色のうちに枝ごと収穫しゆでて食用にできるようにされた品種のことを指します。特別な学名はありません。
ツルマメとダイズの受粉方法は?
ダイズは完全に自家受粉であることが知られており、花が完全に聞く前に雄しべが伸長し、裂開した葯が柱頭に接触して受粉は開花前に完了します(吉村ら,2016)。
一方ツルマメは自家受粉も行いますが、昆虫による他家受粉も行う事ができます。
具体的にはハチ目(ニホンミツバチ・コハナバチ科・ハキリバチ科・クマバチ・ツチバチ科・カリバチ類・スズバチ)・ハエ目(ハナアブ科・ハエ類)・チョウ目・アザミウマ目が訪花することが確認されています。
しかし、ツルマメの花はマメ科に特有の「蝶形花」という蜜を吸うためには花弁を押し開く必要がある構造をしているため、実際に送粉・受粉に貢献する昆虫はハナバチ類に限られる可能性があるでしょう。詳しくは調べられていません。
他に似た種類はいる?
同じくマメ科の野生つる性植物で、花が黄色の種類の区別方法は別記事を御覧ください。
引用文献
林弥栄・門田裕一・平野隆久. 2013. 山溪ハンディ図鑑 1 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社, 東京. 664pp. ISBN: 9784635070195
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. eds. 2010. Flora of China. Vol. 10 (Fabaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723917
山口裕文・島本義也. 2001. 栽培植物の自然史 野生植物と人類の共進化. 北海道大学出版会, 札幌. 256pp. ISBN: 9784832999312
吉村泰幸・加賀秋人・松尾和人. 2016. 遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの生物情報集. 農業環境技術研究所報告 36: 47-69. https://doi.org/10.24514/00003022