カラスウリ・キカラスウリ・ヘビウリはウリ科カラスウリ属に含まれ、レースのひげのように細かく裂けた花冠を持つ大型の合弁花を咲かせる点と、野生種にしてはかなり大型で熟すと黄色~赤色の果実をつける点が大きな共通となる草本です。カラスウリとキカラスウリに関してはかなり身近で、都市部でも少し自然のある場所にいけば比較的観察することができます。一方、ヘビウリは食用になることで有名です。これら3種の区別がつかない場合があるかもしれません。これらの区別をするには葉や果実をしっかり確認する必要があります。また、カラスウリとキカラスウリの間には花の形や生態に違いがあることが分かっています。少なくともカラスウリは夜間にスズメガによって送粉・受粉してもらうために、時に「気持ち悪い」とも言われるレースのひげのように細かく裂けた花冠を発達させています。本記事ではカラスウリ属の分類について解説していきます。
カラスウリ・キカラスウリ・ヘビウリとは?
カラスウリ(烏瓜) Trichosanthes cucumeroides は日本の本州(東北地方南部以西)、四国、九州;中国に分布し、路傍、川辺、斜面緑地、林縁などに生える多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。
キカラスウリ(黄烏瓜) Trichosanthes kirilowii var. japonica は日本の北海道(奥尻島)、本州、四国、九州、奄美大島に分布し、路傍、斜面緑地、林縁などに生える多年草です。
ヘビウリ(蛇瓜) Trichosanthes cucumerina var. anguina は中国・東南アジア・南アジア(インド含む)・オーストラリアに分布し、主に果実を食用とするためアフリカに導入された一年草です(RBG Kew, 2023)。アジアではキュウリのように未熟果を食用にしますが、アフリカではトマトのように赤く熟した熟果を食用にします。日本の和名と学名の対応リストである『Ylist』では Trichosanthes anguina という学名が採用されていますが、これは野生個体群と栽培個体群を別種とする考えに基づくもので、現在では野生個体群と自由に交雑するため、野生個体群と同種であると考えられています。
いずれもウリ科カラスウリ属に含まれ、レースのひげのように細かく裂けた花冠を持つ大型の合弁花を咲かせる点と、野生種にしてはかなり大型で熟すと黄色~赤色の果実をつける点が大きな共通となる草本です。
カラスウリとキカラスウリに関してはかなり身近で、都市部でも少し自然のある場所にいけば比較的観察することができます。
これら3種はよく似ており、区別に迷うことがあるかもしれません。
カラスウリ・キカラスウリ・ヘビウリの違いは?
しかし、これらの違いは比較的多く確認されています(Wu et al., 2011)。
大前提として、カラスウリとキカラスウリは日本では野生種ですが、ヘビウリは栽培されている個体のみです。ヘビウリは自生しません。
形態に着目すればこれら3種はまず、カラスウリとヘビウリでは葉に短毛が密生し、果実は朱色に熟すのに対して、キカラスウリでは成葉はほぼ無毛で、果実は黄色に熟すという違いから大別されます。
特に葉の毛に関しては季節を選ばず確認できる重要な点なので、必ず記録しておきましょう。果実に関してはそのままです。これは「黄烏瓜」という和名通りです。
カラスウリとヘビウリに関しては、カラスウリでは果実が楕円形~球形で長さが5~7cmであるのに対して、ヘビウリ(栽培個体群)は果実が円筒形でくねり、長さが100~200cmにもなります。つまり果実が「蛇」のようになるというわけです。
なお、ヘビウリ(野生個体群) Trichosanthes cucumerina var. cucumerina は卵形~長楕円形のカラスウリによく似た果実をつけます。この場合、カラスウリでは種子が四角形に近いのに対して、ヘビウリ(野生個体群)では種子が楕円形に近いことから区別されますが、日本にいる分には困らないでしょう。
日本本土(四国、九州、琉球)には他にもオオカラスウリ Trichosanthes laceribractea が知られますが、果実は赤く熟し、成葉は上面のみに短剛毛密生することから区別されます。
カラスウリ類とスズメウリやオキナワスズメウリとの違いは別記事を御覧ください。
カラスウリとキカラスウリの花の違いは?
この他にカラスウリとキカラスウリでは花やその生態にも違いがあります(田中,2001)。
カラスウリでは花冠の細かく裂けた部分がかなり大きく、主に夜間に咲くのに対して、キカラスウリでは花冠の細かく裂けた部分が小さめで、夜から翌日の昼間(午前中まで)にも咲きます。
カラスウリでは夜行性で蜜を好み口吻の長いことで知られるスズメガの仲間を惹き寄せることがよく知られています。したがって、カラスウリはスズメガに特化したため、花冠の細かく裂けた部分が大きくなったのかもしれません。
カラスウリの花が「気持ち悪い」と感じる人もいるようです。しかし、この細かく裂けた部分にもきちんと役割があるのです。
一方キカラスウリは観察は行われているものの、具体的にどのような昆虫が訪花するのかは発見されず分かっていません。ただ、咲く時間のことを考えると、昼行性の昆虫にも受粉を頼っているのかもしれません。
まだ研究は不足していますが、よく似た2種が共存できているのは、生態の違いは大きく影響していそうです。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
RBG Kew. 2023. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/
田中肇. 2001. 花と昆虫、不思議なだましあい発見記. 講談社, 東京. 262pp. ISBN: 9784062691437
Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. eds. 2011. Flora of China. Vol. 19 (Cucurbitaceae through Valerianaceae, with Annonaceae and Berberidaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781935641049