ウィンターコスモス(ウインターコスモス)は園芸で観賞用に栽培され、花期は9〜12月と冬に咲くことからガーデニングで重宝されている植物です。一見、コスモスと名前が似ていることから混同する人もいるかもしれません。しかし、総苞片・花・果実を確認すると分類学的に全く別種であることが分かるでしょう。ウィンターコスモスの別名としてキクザキセンダングサが挙げているウェブサイトが大多数ですがこれは間違いで、ウィンターコスモスとキクザキセンダングサは異なる種類です。これは葉や果実の形を確認すると明らかでしょう。本記事ではウィンターコスモスの似た種類の分類について解説していきます。
ウィンターコスモス・キクザキセンダングサ・コスモスとは?
ウィンターコスモスはセンダングサ属の一種 Bidens sp. で学名不明(神奈川県植物誌調査会,2018)。詳細不明。別名ウインターコスモス。日本で園芸で観賞用に栽培されます。イエローキューピット ‘Yellow Cupid’ と呼ばれる園芸品種は代表的です。花期は9〜12月と冬に咲くことからガーデニングで重宝されています。
キクザキセンダングサ(菊咲き栴檀草) Bidens laevis はアメリカ合衆国・中米・南米に分布し、牧草地・湿地・池・小川・河口の縁に生える一年草または多年草です(Flora of North America Committee, 2006; RBG Kew, 2024)。日本でも西日本で帰化の記録があります(神奈川県植物誌調査会,2018)。
コスモス Cosmos bipinnatus は別名オオハルシャギク(大春車菊、大波斯菊)、アキザクラ(秋桜)。メキシコ原産で、園芸で観賞用に栽培され、河原などの乾いたところに逸出帰化する一年草です(神奈川県植物誌調査会,2018;RBG Kew, 2024)。
いずれもキク科でウィンターコスモスとコスモスは似た和名を持っています。アメリカ大陸原産で、日本では観賞用に栽培されているのをよく見かけます。
キク科らしく一見「花」に見えるものは、花の集まり(花序)である「頭花」です。中央にある「筒状花」とそれを囲む「舌状花」から構成され、舌状花の花冠が美しさを生み出している部分に当たります。
また、総苞片は1~2列と少なく、花床(中央の筒状花を付けている土台)は円盤状~凸状であまり盛り上がらないという共通点もあります。
そのため、ウィンターコスモスとコスモスの2種を混同する人がいるかもしれません。
更にウィンターコスモスとキクザキセンダングサは日本国内のほぼ全てのウェブサイトで同じ種類であるという記述されていますが、これは間違いで全くの別種です。『Google検索』のサジェストも間違っています。
ウィンターコスモス・キクザキセンダングサとコスモスの違いは?
まず、わかりやすいウィンターコスモス・キクザキセンダングサとコスモスの違いから考えていきます。
名前は確かにどちらもコスモスと付いていますが、分類学的にはキク科ではありますが、ウィンターコスモスとキクザキセンダングサはセンダングサ属に含まれるのに対して、コスモスはコスモス属に含まれており、大きな違いがあることが予想されるでしょう(神奈川県植物誌調査会,2018)。
具体的には、センダングサ属では総苞片は1列しかなく草質であるのに対して、コスモス属では総苞片は2~3列で内片は膜質であるという違いがあります。
総苞片というのは頭花を包んでいる葉のような存在のことです。
したがってウィンターコスモス・キクザキセンダングサとコスモスでも総苞片の数に違いがあります。
勿論、違いはそれだけではなく、ウィンターコスモス・キクザキセンダングサとコスモスの3種に限ればもっと違いを発見することができます。
舌状花の花冠に関してはウィンターコスモスとキクザキセンダングサでは白色~黄色であるのに対して、コスモスは白・ピンク・紅紫色(稀に黄色)であるという違いがあります。
果実に関してはいずれも痩果ではありますが、ウィンターコスモスとキクザキセンダングサでは痩果は平べったく、長い刺状の逆刺のある芒(尖った部分)が出来ることによってひっつくことによって「引っ付き虫」になるのに対して、コスモスでは痩果は細長く、芒はなく引っ付き虫にはなりません。
ただし、近縁種のキバナコスモス Cosmos sulphureus では芒があり引っ付き虫です。しかし、痩果はやはり細長いです。
ウィンターコスモスとキクザキセンダングサの違いは?
問題はウィンターコスモスとキクザキセンダングサの違いです。あらゆる植物解説サイトや園芸サイトなどのメディアで同一視されているので、2種が別種であると疑う人の方が少ないかもしれません。
しかし、決定的な違いがあります。
ウィンターコスモスでは葉が分裂葉で2回羽状複葉であるのに対して、キクザキセンダングサでは葉が分裂せず広い線形です。
また、果実に関してもウィンターコスモスでは芒が2本しか無いのに対して、キクザキセンダングサでは芒が4本あるという違いがあります。
これらの特徴は花冠の色の変異より強く保存されているものであり、園芸品種だからといって変わるものではありません。
したがって、全くの別種であると考えられるでしょう。
なお、舌状花の花冠の色に関しても、ウィンターコスモスでは薄い黄白色の個体が多いですが、キクザキセンダングサでは濃い黄色となっているようです。
ではウィンターコスモスが具体的に世界的に知られているどの学名の種類に相当するのでしょうか?ちなみに「ウィンターコスモス」というのは和製英語です。
日本の研究によればウィンターコスモスに相当する種類は「不明」です(神奈川県植物誌調査会,2018)。
そこでアメリカ合衆国での研究を見ると、キンバイタウコギ Bidens aurea (シノニム:Bidens ferulifolia)という種類は2回羽状複葉でかつ芒が2本とよくウィンターコスモスの特徴と一致しており、「ウィンターコスモス=キンバイタウコギ」としたくなるところです(Flora of North America Committee, 2006)。
ところが、日本の研究ではキンバイタウコギは「葉が分裂せず広い線形で」かつ、芒が2本としており、矛盾が生じています。
普通に考えれば原産国であるアメリカ合衆国での研究が正しいでしょうが、近縁種の可能性も否定できないので、ここでは一旦、「不明」ということにさせていただきます。
他に似た種類は?
センダングサ属の別種について知りたい人は別記事を御覧ください。
また、コスモス属の違いを知りたい人はこちらの記事を御覧ください。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
Flora of North America Committee. 2006. Flora of North America, Volume 21 Magnoliophyta: Asteridae, Part 8: Asteraceae, Part 3. Oxford University Press, Oxford. 616pp. ISBN: 9780195305654
RBG Kew. 2024. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/